七【オワリ始まりを学ぶ】

「――お前さんは静かに泣いとったよ……なんと声をかけたら良いか」


 クロウの悲しき現状を伝え、突然話しを終わらせた。

 突発過ぎな終わらせ方でしばらく沈黙が続き、


「……え!これで終わり!?」


 クロウは激しくツッコむ。


「いや、全然詳しくじゃねぇし!俺はもうニッポンに……いや日本に……あれ?

このまま戻ったら……んあ?

どゆこと??もう分っかんねぇ!泣きそう!

 ちょっ……は、話しを変えよぉ!じゃあ仕事は!?今の仲間は!?ってかあんたジャックって名前かい!!」


 クロウの切り替えとツッコミにドクは困惑する。


「落ち着けーい!

 確かにその後能力を身体に慣らすトレーニングや実験、仕事の話しもじゃが、一度に聞いても困惑するだけじゃ!仕事に関してはわしの知らん事も多い。仲間の事は本人等に聞くと良いじゃろ」


「……お、おう」


 クロウは渋々納得した。

 しかし所々疑問は残る。

 クロウはドクの話しはでき過ぎていると睨む。

 話しを飛ばしているだけなのかもしれないが展開が早過ぎる。何処かおかしい。

 そして何か隠しているようにも聞こえた。

 疑念を抱きながらもクロウはこれからの事をドクに相談した。


「とりあえず分かった。

 死んだことにか……記憶はねぇけど、俺自身は何も変わってないんだろ?

 もう何が何だかだけど、能力やら仕事やらまた一からよろしく頼むわ。

 まず、俺は何をしていけば良いんだ?」


「……そうじゃな、現時点で記憶の欠落に関してはわしも分からん。

 まず周りの人間に会ってみたらどうじゃ?それにお前さんは丁度昨日までは働き詰めで、さすがに今日は余裕があるじゃろうから」


 クロウはドクに何でも聞くのも重荷に感じさせてしまうと思い、とりあえず自分の部屋に戻ることにした。


 廊下を渡り、恵華と乗ったエレベーターに乗り込んでボタンを見るとドクの部屋は地下三階だった。

 自分の部屋がある三階を押して上へ上がると、一階でエレベーターが止まってしまった。


 あっ、知らねぇ奴だったらどうしよ……。まぁ俺が忘れてるだけだから良いか。


 クロウは少し不安に思いつつエレベーターの扉が開くと、そこに立っていたのはエドガーだった。

 エドガーは驚いた顔をするなりクロウの両肩を突然掴み出した。


「ドクの所に行ってたんだろ!?何か思い出せたか!?」


 エドガーは少し焦ったようにクロウに問う。


「いや、何にも思い出せねぇ。実験だの仕事だのって聞いたけど、まだ何も分からねぇよ」


「そうか……」


 エドガーはクロウの肩から手を下ろし、悲しげな顔をして俯く。

 その顔を見てクロウは何か悪い事をしたような感じがしてしまい、励ますように明るく声を張り上げた。


「まぁ〜よっ!よく分からねぇけど少しは現状理解した。

 改めてよろしく頼むぜ!エドガーさんよ!」


 クロウはエドガーの胸を手の甲で叩きながら笑顔で言うと、エドガーはじっとクロウを見始めた。


 すると、


「……ハッハー!

 記憶がなくなっても変わらないんだな!恵華から聞いたけど、病み上がりであいつとスパーリングなんかやりやがって(笑)

 それじゃあドクとも会ったら次はあいつ等に……と言いたいところだが、まず"ボス"に会ってもらうぞ?」


 クロウはそうなる事が分かっていたようで素直にエドガーについて行った。

 するとその建物の一階にある駐車場へ行き、車で出ようとする。

 エドガーによると"ボス"は全く別の場所の屋敷にいるようだ。

 この屋敷は過去に仕事で手に入れた物で、ここを拠点にしたいとクロウがボスに申し出て無理矢理移動したようだ。


 車に乗り込み屋敷を出ると、そこは何もない長い田舎道だった。

 車でボスの所へ向かう道中、クロウはエドガーに色々と質問を始めた。


 しかし屋敷やらDNA?の事やら本当に俺は何者なんだ?


「なぁ?お前は俺のこと変わらないって言ったけど俺ってどんな奴だった?」


「……特に今と変わらないぞ?何があってもすぐに切替えて、平然としているようなアホだったな(笑)

 でも、頼りになる奴だよ。お前は」


 エドガーは少し寂しげに話す。


「アホで頼りになる?(笑)

 まぁ良いや、もっと教えてくれ」


 エドガーは大雑把にだがクロウに話した。

 組織ではどんな非合法的な仕事をしているか。

 薬の副作用で体が思い通り動かない中で必死で仕事をこなしてた事。

 仲間との信頼関係。

 日本での生活がなかった事のように仕事に没頭していた事を話した。


「……じゃあ非合法って事はもちろん犯罪だろ?俺は良く分からねぇけど、"組織"ってのはやっぱり商売的にマフィアとかギャングの類いなのか?

 そんなんに何で俺なんかが必要なんだよ?」


 クロウはどうしても根本的なところが気になってしょうがなかった。


「確かにうちの組織はお前の言うマフィアだが、お前のチーム……まぁ俺もいるが、全然違う事をしている方が多いからな。

 屋敷だってある事件に関与していた一家をお前が独断でぶっ潰して得たものだからな」


 組織的にクロウ自体は別の使い方をされていたようで、麻薬の売買や人身売買といったマネーロンダリングにはあまり関わっていなかったようだった。


「ふーん、映画の世界の話しだな。

 ボスに会うのが怖くなってきたわ(笑)」


 クロウはこれからやっていかなければならない仕事が自分に出来るのか不安になっていた。

 それを今までこなしていた事が不思議な位に。

 前のクロウは肝が据わっていたようだが、人身売買などに関わっていなかったことを聞くと、やはり多少なりとも良心があったのかと自分に安心感を持つ。


「でもまぁ、お前が暴走して単独で動く事が多くてな。命令無視がほとんどだ。

 ……今までお前が生き残れたのは周りのおかげなんだぞ?」


「……」


 クロウは話しを聞いてるだけでは本当に自分の事なのか信じられなかった。


「……なぁ、能力についてはどうだった?お前等はどうゆう感じで受け止めていたんだ?俺と居て怖くなかったのか?

 ドクは俺は元々人とは違うDNAを持っていたとも言ってたし。

 はっきり言って俺自身は自分が怖ぇよ」


 恐る恐る自分の印象をエドガーに聞く。


「それは……その体のおかげで俺等も助けられる事も多かったし、普段は気にしていなかったな」


 エドガーは少し戸惑いながらもクロウに気にするなと話す。


「良いかクロウ。これはお前が俺達に言ってくれた事だが、俺達は仲間であり家族だ。

 それだけはこれから何を知って何を聞いても頭に入れておけ、分かったな?」


「ん?あぁ」


 ますますクロウの中で不安が大きくなる。

 組織どうこうよりクロウ自身の事をドクもエドガーも恵華さえあまり話さない。

 隠していると言うより言い辛いようにも感じる。

 いずれ分かるだろうとクロウは詮索せずに話しを続けた。


「そういえば恵華に少し聞いたけど、仲間ってのは?やっぱり組織内で出会った奴等か?

 それなりの人数がいるみたいだけど、全員お前の言う家族か?」


「いや、は常に一緒居る幹部七人だ。

 大体はお前が拾ってきた奴等だな(笑)

 あと、勘違いするなよ?あの屋敷に出入りしている人間はお前についてきている奴等だけだ。

 組織自体は人数が半端ないそ?

 その中の"クロウファミリー"の幹部だからな?」


 エドガーが言うには、組織が巨大なために各地で派閥化しているとの事。


 エドガーがボスの"右手"的な最高幹部で、何故クロウと居るかは監視のため。

 過去にクロウがエドガーを仕事の度に同行に指名していた事もあるようだ。


 余程クロウはエドガーを好いていたようだが、それもそのはず。

 クロウが拉致られてから面倒をみていたのはエドガーだった。

 クロウがまだ日本に未練があり、錯乱した時も脱走し捕まった時もエドガーがそばについていた。


 今のクロウファミリーが出来るまでは、ボスには監視と言いつつ、エドガーはクロウと一緒に女遊びやギャンブルなどをして組織内での生活を慣れさせたのだ。


「ふーん……ん?」


 何処かドクと話しの内容が……。


「まぁ良いや。

 それじゃあ用が終わったら他の仲間全員紹介してくれ」


「おう!」


 エドガーは親指を立てグッドサインを出し

 クロウに笑いかけた。

 そうこうしている内に車はヘリポートに着いていた。


 それなりに距離があるらしく、ヘリコプターでの移動に切り替える様で、車を駐車して乗り換えた。

 流石に大きな組織だけにヘリポートもヘリも自家用だった。

 乗り込んですぐ上空へ上がると遠くに町が見えたが、進む方向は町とは逆方向にヘリは飛んで行った。


 ……緑ばっかりだ。


 田舎の方へ飛び進むと、またもや大きな屋敷が。

 そこには屋敷専用のヘリポートがあり、クロウがさっきまで居た屋敷とは別格に豪邸だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る