アフォシェ

櫻井春瀬

第1話 このまま夜に。

「なんで教えてくれなかったの。私、全部教えてって言ったよね。」

唯は圭佑を責める。

「ごめんって、隠すつもりはなかったんだよ。」

圭佑は少し怒り気味に返す。

唯と圭佑はの再会は3ヶ月ぶり。店からの帰り道、圭佑に電話がかかってきた。

相手は圭佑と同じサークルの女子。圭佑はすぐに電話を切ったが、唯がその内容を察することは難しくない。

「女の子との、そういうのは教えてって言ったよね。全部。なんで…。」

唯の声は震え始める。

「いや…別に大した関係じゃないしさ、なぁ…泣かないでくよ。ほんとになんでもないから。」

「…だから?」

「ほんとにサークルで会うだけでさ。そんなんじゃないから、別に報告することでも無いかなって。だから、な、」

その言葉が唯の心をさらに引き裂いた。

「そういう…ことじゃ、そういうことじゃないよ。」

「私は圭佑のこと全部知りたいのに、だから毎日同じ電話してるのに、全然会えないから… だから…。」

一度溢れ出すと止まらなかった。逃げるように走った。なんで分かってくれないの。一緒に居られない事すら辛いのに。だから、知らない事があるとすごく寂しいのに。

振り向かないように夜にむかって。寂しさをうわべだけの怒りで塗りつぶして。後悔する前に。このまま夜に。

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