ざ・ちぇんじ☆児童会!?

成井露丸

第1話 曲がり角で始まった!?

 わたし、木春菊もくしゅんぎく幸子さちこ。どこにでもいる普通の小学六年生。

 名字はなんだか難しいから、友達にはサッチーって呼ばれている。ちなみに木春菊はマーガレットっていうお花を日本語で呼んだ時の名前なんだよ。珍しい名字でしょ?


 わたしの通っている学校は私立洛和小学校。京都にある私立の小学校なんだ。私立だからかわからないけれど、洛和小学校には制服があるの。とってもかわいいセーラー服で大好きなんだ~。男の子の制服もかっこいいんだよ。

 学校にはいろんな生徒が集まっていて、茶道の家元の子どもから、帰国子女、はたまた普通の家の普通の子どもまでいろんな子どもがいる。みんなほんとに個性豊か。だからわたし、自分の通っている学校のことがだ~い好き!


 でもそんなわたしでも、もちろん悩みはあるんだよ。それは、わたしに何の取り柄もないってこと。周りにいる個性的で才能に溢れる友だちと違って、わたしは普通の家に生まれてた、普通の女の子。洛和小学校に合格できたのもきっとまぐれ。

 あーあ、わたしも学校の友だちみたいに特別な小学生になって、なにか大きビッグな目標を成し遂げたりしたいなぁ!


 そんな風に思うから――

 わたしは今日も朝から、食パンを口に挟んで全速力で走っているんです!


「遅刻、遅刻~っ! 遅刻しちゃうよ~!」


 あ、ちなみに今は朝の七時ちょうど! いつもの登校時間より一時間以上早い時間に、わたしはトーストしたての食パンを咥えて通学路を走っている。

 だから「遅刻、遅刻〜っ!」て言っていても、本当は遅刻なんてしないんだからねっ。(こう見えてもわたしは無遅刻無欠席。五年連続皆勤賞のサッチーなんだよ)


 じゃあ、どうして「遅刻、遅刻~っ!」って走っているかって?

 そりゃあもちろん、その方が雰囲気が出るからよ!


 アニメとか漫画で、遅刻しそうになった女の子がパンを咥えながら学校への道を走っていると、曲がり角で素敵な男性とぶつかってそこから物語が始まる。そういうのってよくあるじゃん!? わたしはそういうチャンスに憧れているんだ。

 いつかこうやってパンを咥えて走っていると、素敵な人とぶつかって、そこからわたしの小学校生活も特別なものに変わるんじゃないかって。


 でも四月の始業式から一週間、こうやってパンを咥えて通学路を遅刻しそうになりながら走ってみたけれど、誰にも一度もぶつからないの。――おかしい!


 そこでわたしは考えたんだ。きっと「時間帯」が違うんだって。

 だから今日は思い切って、いつもの登校時間より一時間早く、トーストしたてのパンを咥えて、家を出たんだ。「遅刻、遅刻~っ!」て言いながら! (絶対、遅刻しないんだけどね)


 そうやって全力で走っている通学路。いつもの曲がり角がもうすぐやってくる。誰かにぶつかるならきっとその曲がり角だって、わたしはずっと前から思っているの。

 今日こそ、誰かとぶつかりますようにっ!

 心にそう祈って、わたしはその曲がり角へと飛び込んだんだ。


 ――どんっ!


「きゃっ! いったぁ~い!」

「いてててて」


 右側から突然何かにぶつかられた衝撃があって、わたしは思わず尻もちをついた。

 曲がり角でぶつかることは考えていたけれど、本当にぶつかったことはなかったから、わたしもびっくりして、アスファルトの上に尻もちをついちゃった。

 ゆっくりと目を開く。ぶつかった衝撃で地面に落ちた半分の食パン。もう食べずに捨てよう、うん。手に持っていた鞄は、落とした衝撃で開いてしまって、中の教科書や、小物が散らばってしまった。(あとからちゃんと忘れ物のないように拾わなくっちゃ!)


 でも、今一番大切なのは、そういうことじゃない。

 地面で打ったお尻をさすりながら、わたしはおそるおそる視線を上げた。


 するとそこにはわたしと同じようにぶつかって尻もちをついた女の子が、スカートを押さえながら座っていた。しかもそれはわたしの学校の制服だった。

 知っている人かな? 誰だろう?

 彼女も顔を上げる。その人は――


 めっちゃ綺麗な女の子だった!


 思わず見惚れてしまう。わたしがそのままぼけっと眺めていると、その娘は立ち上がり膝とお尻についたホコリを払った。そしてまだ尻もちをついたままのわたしに手を差し伸べる。


「――大丈夫?」


 それはまるでミュージカルにでてくる王子さまがお姫さまにする仕草のようで。(つまりわたしは今、お姫さま!)女の人が演じる、綺麗な王子さまは、素敵すぎるのです!

 わたしは「ロミオとジュリエット」のジュリエットみたいにうっとりとしてしまったのでした。


「う……うん。大丈夫です」


 気の利いた言葉を一つ言えずに、わたしはその手をとった。

 引き上げられて立つわたし。膝がくがく。


「――良かった、怪我はないみたいだ」


 そう言って笑った彼女の唇の間からは真っ白な歯がきらりと光った。

 まるで男装の麗人! 女子の制服を着ているけれど! なんかそんな感じ。かっこいい!!

 「お姉さまっ!」て呼びたくなっちゃうわ! もしくは「騎士ナイトさま」!?


 ……でも、ちょっと待って。こんな娘、わたしの学年にいたっけ? カッコいい美人系女子といえば6年1組の式部しきぶヴァイオレットさん。その他には――うーん、いないよね。もしかして5年生? そんなはずないよね。この雰囲気は絶対に年上か同級生。


 わたしを引き上げてくれた彼女は、その後屈んで自分の鞄の中身だけじゃなくて、散らばったわたしの教科書や小物も拾った上で鞄に入れて、渡してくれた。(めっちゃ優しい!)


「あ、……あの! ぶつかってごめんなさい! それに、拾って頂いてありがとうございます!」

「なに、気にすることはないよ。急いでいたんだろう? 誰でも失敗することはある。気にすることはないさ。特に大きな事故にならなくて良かった」


 そう言って彼女はまた爽やか笑顔を浮かべたのだ。カッコよすぎて、胸が苦しい……!


「あの……! 何かお詫びをしなくちゃ。お名前を……せめてお名前を教えてください」


 そうわたしが言うと、わたしの騎士ナイトさまは、少し体を震わせたあとに、はにかんだよな微笑みを浮かべた。


「なに。名乗るほどのものじゃないですよ。お嬢さんに怪我がなければ何より。――それでは僕はこれで……」


 そう言うと彼女は来た道をUターンするように歩いていった。その背中をわたしはしばらく呆けたようにボウッと見ていた。


 よくわからないけれど。これ、来ちゃったかもしれない……。

 特別な能力を得るとか、プリキュアみたいにマスコットキャラクターに出会うとか、王子さまみたいな男性に出会うとかじゃないけれど――。

 これはわたしの物語、はじまっちゃったんじゃないかな!?


「――一旦家に帰ろっと」


 そんなことを思いながらも、わたしは怪我が本当に無いのか確認するのと、汚れた体を洗うために、一旦家へと帰ったのでした。

 学校が始まるまでには一時間あるしね〜。


 ただ、家まで一旦帰る道、頬のニヤケを止めることができなかった。目を閉じても思い出されるのはあの麗人の姿ばかり。


 わたし! 始まっちゃったみたいです!


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