第4話 感情の渦
「さて…そろそろゲームを始めようかな」
先程買ってきたVR機器の電源を入れ、起動させる。
視界が真っ白になり、無機質な声が聞こえてくる。
「ようこそ【Elysion】の世界へ。貴方のお手伝いをさせて頂くサポートAIのE602です。」
そう名乗るAIに顔を向けようとするが、視界がボヤけどこに存在するのか認識ができない。
「申し訳ありませんが、私達サポートAIはプレイヤーの方々には認識できないように設定されております。ご了承ください。」
心を読まれた…!?いや、普通に疑問に思う人が多いだろうから説明しただけだよね。きっと。
「最初にこのゲームの注意点について説明させて頂きます。まず一つ、このゲームはログアウトする事ができません。」
「え…?ログアウトできないって…」
頭の整理が追い付かない。ログアウト不可能ということはつまり現実世界に帰れないってことだよね…?
考え込んでいるかごめにさらに追い討ちをかけるかのようにAIが話を進める。
「二つ目、この世界で死ぬと現実世界には戻れますが、全ての記憶を失います」
「記憶を、失う…」
記憶を失うということはつまり彩の事を忘れてしまうという事で私の全てでもある彩の事を忘れるってことはもう死んだも同然だ。
彩の事を忘れてしまうかもしれないという恐怖が思考をぐるぐると掻き乱す。
「三つ目…」
「まだ…あるの…?」
「【Elysion】内では現実世界でも歳を取ることはなく、時間経過もありませんのでご安心ください。」
その言葉によって私の中の思考が一つに纏まり、思わず笑みが溢れ出てしまう。
だって、時間が経たないということは、歳を取らないということはーー
「私のだーいすきな彩とずっと一緒に居られるじゃん…」
その言葉と共に空気が狂気に満ちていき、頭の中の何かが弾けていく。
心做しか姿の見えないはずのサポートAIでさえ怯えているように思えた。
「ク、クリアすれば現実世界へと帰れます。」
さっきまでの恐怖が嘘のように高揚感に変わる。
記憶を失うなんてもうどうでも良い。
要は死ななきゃ良いだけなんだから、その程度私には容易いことだ。
クリアしたら帰れるなんて冗談。
彩とずっと一緒に居られる楽園を捨てて現実世界に帰るなんて勿体ない。
邪魔するモノは排除しよう。
「えへへ…彩ぁ……」
もうサポートAIの声なんて聞こえないほど甘美な感情に酔いしれていた。
私はずっとここで彩と暮らせるんだ。
文字通り永遠にーー
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