第4話 嫌われ令嬢はゲーム主人公と邂逅する
夏休みも終わりに差しかかった頃。
マリア・テレジアが食事の席で皆に言った。
「この度、ブルボン家から留学生を迎えることにした。明日、
ブルボン家からの留学生…?
「それは、もしかしてブルボン=パルマ家のマリア・イザベラ様のことですか?」
「なぜアマーリアがそのことを知っておる?」
マリア・テレジアは不審そうに問う。
「それは…そのう…当家の交友関係から考えて、もしかしてと思ったものですから…」
私はしどろもどろになりながら答えた。
思い当たるところのある私は、質問せずにはいられなかったのだ。
なにしろマリア・イザベラは「ハプスブルクの夢」のゲーム主人公であり、帝国に留学するということはゲーム上のフィクションだったから…
──これでこの世界が「ハプスブルクの夢」の世界だということはほぼ確定ね。
今まで疑心暗鬼だったことが確信に変わった瞬間だった。
◆
翌日。
予告どおりマリア・イザベラが
彫りが深く、メリハリの効いた美人系の顔立ちだ。さすがは主人公だけある。
マリア・テレジアが声をかける。
「イザベラ嬢。よく来てくれましたね。歓迎しますよ」
これに対しイザベラは堂々と流れるように謝意を述べた。
「陛下。この度は留学にお招きいただき誠に幸甚に存じます。心から感謝申し上げます」
メインの攻略キャラとなる長兄のヨーゼフⅡ世は、目を見張ってマリア・イザベラに
「マリア・イザベラ嬢。歓迎するよ」
「ヨーゼフ様ですね。これからよしなにお願いいたします」
優雅に微笑して答えるマリア・イザベラをみてヨーゼフははにかんでいる。
とりあえず攻略イベントの初手は成功のようだ。
続いて、待ちかねたようにマリア・クリスティーナがイザベラに駆け寄る。
「イザベラお姉さま。お会いできて嬉しいですわ。ずっと待ちかねておりましたのよ」
「ああミミ! 私もよ。手紙だけでなく、本物のあなたに会えるなんて最高だわ」
イザベラとクリスティーナは以前からの知己であり、熱烈な手紙を交換し合う仲だった。イザベラにしてみれば、心強い味方である。
私も
「マリア・イザベラ様。お初にお目にかかります。マリア・アマ―リアと申します。これからよしなにお願いいたします」
「こちらこそよろしくね。アマーリアさん」
「イザベラ様は、哲学や倫理・理系の学問にもお詳しいそうですね。それに音楽にもずばぬけた才能をお持ちとか…。ぜひとも詳しくお話を聞かせていただきたいですわ」
「それはもちろん構わなくてよ」
「それはありがとうございます」
マリア・イザベラは意外そうな顔をしていた。元の私の評判を聞いていたのだろう。
これで第一印象が少しは良くなっただろうか…
私のこのゲームでの役割はモブだ。たまに遭遇して、主人公に憎まれ口を言うことくらいしかイベントがない。
そもそもマリア・イザベラは
そういう意味では悪役令嬢ですらなく、あえて言えば嫌われ令嬢といったところか…
そんな私であるから、ゲームの中では私の行末は描かれていなかった。
だが、もし史実どおりに事が進行するとなると、マリア・テレジアの意向で、恋人との仲を引き裂かれ、マリア・イザベラの弟のフェルディナンドと結婚させられる。
そして、自分の恋愛が母のせいで成就しなかったことに怒りをあらわにし、パルマでは浪費をしたり、夜通し遊びほうけたり、愛人を作るといった乱行に走ってしまう。
そして再三の母からの注意を無視したため勘当され、オーストリアへの帰国を禁じられることとなる。
フェルディナンドは、栗を焼くのと鐘を鳴らすのが趣味といううつけ者だった。
マリア・テレジアはブルボン家との関係強化に異様なほど固執しており、これはいかにもありそうな話だった。
こんな将来は、なんとしても回避したい。
やはりマリア・テレジアとの関係修復がまずは第一歩だな…
そしてあわよくばカウニッツ様と…
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