黒い海を泳ぎ切れ

保地一

プロローグ

時折、めぐみとデートをした時のことを思い出す。


あの時僕たちは、とある海沿いの水族館に入り、クラゲの展示コーナーを見ていた。

「何を考えているの?」

じっと水槽を見つめているめぐみにそう問いかけると、少し間を開けてからこういった。

「あのね、今は気持ちよさそうにふわふわ浮いているけど、ここに墨汁をいれて真っ暗にしたらどうなるかなって考えてたんだ。きっとびっくりするよね」

「えー、そんなこと考えてた?きっと苦しんで、外に出ようとするんじゃないかな。

でも、水槽から出られるわけじゃないし、きっとそのまま死んじゃうよ。結構残酷なこと考えてるんだね」

「こんなこと考えるなんてひどいよね。でも、あんまりのんびりと、何も考えないでふわふわ浮いてるなんて、なんだかずるいと思って」

そう言ってめぐみは、恥ずかしそうにほほえんだ。


でも、今思えば、そのとき何も考えずにふわふわ浮いていたは、僕のほうだったのかもしれない。






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