あら怖い

『この泥棒ネコ!!』


怒鳴りながらヤナカはひらりと窓からマヒルのベッドの上で艶めかしくポーズをとっていた祢呼ねこに飛びかかった。


まるで猛禽類がネコにでも襲い掛かるように。


けれど祢呼ねこの方も、するりとヤナカを躱してみせる。


「あら怖い」


やっぱり艶やかに笑みを浮かべながら。


ちなみに、妖艶さもあって三人の中では一番年上に見える祢呼ねこではあるものの、年齢は十五歳と、一番年下である。が、やはりすでに<成人>しているので基本的には問題はない。


これさえ当事者間の問題というだけの話である。パートナーがいる相手にアプローチを掛けるのも構わない。嫌なら断ればいいだけだ。


そして断られたからと言って再度のアプローチを試みることも禁じられてはいない。嫌ならやっぱり断ればいいだけで。


だからマヒルは断っているものの、祢呼ねこが諦めないのだ。


ヤナカは、自分がいるのにマヒルにアプローチを掛ける祢呼ねこが気に入らない上に、マヒルが断っているのにしつこくアプローチしてくる祢呼ねこが許せなかった。だからこうして顔を合わせるたびにケンカになる。


と言うか、ヤナカが一方的に襲い掛かる。


それを祢呼ねこはするりするりと躱してみせる。


「鬼さんこちら♡」


ヤナカを煽るように声を上げた。そしてやはりするりと躱したと見えたその時、


「んがあっ!!」


気合一閃、体を横っ飛びさせたヤナカがついに祢呼ねこを捉えた。すると二人は一緒になってベッドから転がり落ちて、


「このクソ泥棒ネコがーっ!!」


「何よこの鳥頭ババア!!」


とか罵り合いながら取っ組み合いになる。もっとも、実はこうなると体が小さいヤナカは本来不利なのだが、二歳年上なこともあってか、ほぼ互角の勝負だった。


だが、そんな二人に、


「いい加減にして!!」


マヒルが吠えた。恐竜人間ダイナソアンとしての大きな体の心肺機能は非常に高く、本気で咆哮すると十キロ先にまで声が届くという。


「!!」


その<圧>に、ヤナカも祢呼ねこも、ビクンッ!と体が跳ねた。


「もう! ベッドがメチャクチャでしょ!」


マヒルが言うように、彼のベッドはシーツがメチャクチャになっていた。彼の丈夫な鱗が擦れても破れないように特別な布で作られていることで、ヤナカや祢呼ねこの爪が当たっても破れたりはしてないが。


なので、ヤナカと祢呼ねこは二人してベッド脇に正座させられ、


「だいたい二人はもういっつもいっつも……!」


と、マヒルにお説教されていた。


それらの騒動は、当然、近所中に聞こえているものの、近所の者達もすっかり慣れているので、


「あらあら、またやってる」


的に微笑ましく思ってるだけなのだった。


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