愛するケモノ ~恐竜人間と翼をなくした鳥人間のドタバタ恋模様~

京衛武百十

マヒルとヤナカ

マヒルとヤナカ

ここは、恐竜型の巨大な生物<鵺竜こうりゅう>が闊歩する惑星<朋群ほうむ>。でもその中に、周囲を高さ一千メートル級の断崖で取り囲まれ、温暖で湿潤かつ鵺竜こうりゅうが立ち入ることのできない奇跡のような台地、<錬是れんぜ>と呼ばれる土地があった。


そしてその<錬是れんぜ>には、多種多様な<獣人>達が暮らしていた。


これは、そんな<錬是れんぜ>に暮らす若い獣人の男女の物語である……?




「マヒル! お前、今日はもう上がっていいぞ!」


勤め先の親方からそう声を掛けられたのは、<マヒル>。<恐竜人間ダイナソアン>と呼ばれる、身長二メートル、青黒い鱗に覆われた肌と、金緑色の瞳、頭には大きな鱗が髪の毛のように重なって、身長よりも長い尻尾が生えた青年だった。


「はい、ありがとうございます!」


マヒルは朗らかにそう応えて、


「じゃ、お先です」


職場の仲間達に軽く手を挙げて挨拶し、歩き出した。


「おう! お疲れさん!」


挨拶を返してくれた職場の仲間達も、これまた、普通の人間のような姿の者だけじゃなく、銀色の毛皮に覆われた者、白い毛皮に覆われた者、果ては、青緑色の昆虫のような皮膚をした者と、実に様々な姿をした者達だった。しかも、男性も女性もいて、皆、同じように働いている。


それが、この土地、<錬是れんぜ>の住人達である。


マヒルが働いていたのは、近々永い眠りから覚めるとされている<七賢人>の一人、


<エレクシア>


と呼ばれる貴人の住居となる建物の建築現場だった。


と、その時、


「すきありーっっ!!」


という叫び声と共に、何かが彼の背中に飛びついてきた。けれど、マヒルは、素早く体を横に滑らせてそれを躱し、同時に、右手でキャッチしてみせた。


「ぬおーっ! 離せ! この卑怯者ーっっ!!」


マヒルの右手に服の襟を捕らえられて宙吊りになった<それ>が、じたばたと暴れる。


「もう、不意打ちするなら『隙あり!』じゃないでしょ? ヤナカ」


少し困ったように微笑みながら言うマヒルに対して、彼の右手に掴まれて暴れる<ヤナカ>は、


「うるせーっ! 知らねーっ!!」


と抗議の声を上げる。


レモンイエローの羽毛に覆われた、マヒルの半分くらいしかなさそうな小さな体。


足の指には鋭い鉤爪。手にも、足ほどではないもののやはり鉤爪。


そして頭には、鮮やかなオレンジ色の、冠のような飾り羽。


明らかに鳥の意匠を持つ、けれどそのプロポーション自体は明らかに人間のそれを持つ、少女?だった。


もっとも、マヒルは十六歳。マナカは十七歳の、この世界ではもうすでに<成人>として扱われる、周囲からも認められている<カップル>である。



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