Day3

 

「茶々丸ー、メシ食べんのかー?」


 今日は休日です。朝から騒がしい様子の田中家。ぐっすり寝ている茶々丸に話しかけているのは次男の次郎です。長男に合わせてか坊主頭。小学生です。



「メシは置いてあるからちゃんと食えよー」

「次郎! 出発するわよー!」


「はーい、今行くー!」


 美里さんの声を聞いた次郎は慌てて立ち去りました。それにしてもぐっすり寝ていますね。


 ん?


 茶々丸の周りの風景が歪み始めました。何が起こっているのでしょうか……











「ミ゛ャ?」


 違和感を覚えたのかようやく起きたようです。周りを見渡すと闘技場のような場所で、茶々丸の傍らにはボロボロの青髪の少女がたおれています。



「フェンリル様! お願いします!」


「????」



 寝起きの時にフェンリルと勘違いされては困惑するのは当たり前です。狼と猫の違いくらい気づいて欲しいです。あんな恐ろしい動物とこんなキュートな茶々丸を間違えないでください!



「そ、そいつがあの伝説のフェンリルだと!?」


「ふ、私ほどの召喚術師になれば喚び出すことも可能なんです! さあ、フェンリル様やっちゃってください!」


「ニャ」


 猫は気ままな生き物、飼い主でもなければ尚更です。観客席のどよめきも、大男の驚く姿も、倒れながら威張る少女をも無視してどこ吹く風と毛繕いを始めました。可愛らしい仕草です。


「フェンリル様!?」


「な、なんだ、驚かせやがって。降参しろよ。もうお前に手札は無いんだろ?」


「くっ、お母さん、シーア、ごめんね……」


「やりづらいな」



 状況から察するに、賞金でもある大会の決勝戦とかなんでしょう。おや?



「ミャー」


「ぐあ゛!」


 勇者の青い光を纏った猫パンチが大男に鎧越しで炸裂しました。すっ飛んで闘技場の壁に激突しました。



『ガン選手場外! 第163回クアッテム総合戦闘大会、優勝はアーシ選手だ!』



 少女が優勝したようです。茶々丸の気まぐれに助けられましたね。家族の為というセリフが効いたんでしょうか。



「やったー! これでまたカジノに行けるわ!」


「ミャ……?」



 おっと?


「それにしても、この国に猫がいないのに助けられたわね。まさかあんな嘘が通じるとはね……」


「ミャ」


 抗議するような目で少女を見る茶々丸。私もこのクズにはぜひ報いを受けて欲しいんですが。


「いやー、君すごいね。どこの猫なんだろう? 私の召喚術、どこかから猫を喚び出すしか出来ないけど助かったわ」


「ニャッッ!!」


「キャーーーーー!?」



 当然ですね。猫パンチなだけありがたく思って欲しいものです。



 召喚者が気絶したからか、再び茶々丸周りの空間が歪みます。








 元居た猫用布団に戻りました。とんだ災難に会ったとばかりに目をつぶって寝ようとしています。お疲れ茶々丸。今日はゆっくり休んでね。








 それにしてもフェンリルですか…………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る