思いは金魚鉢の中

花詞

第1話

「どうしたんですか?篠原さん。」


雑草を抜きながら、自分のクラスがある位置を眺めていると、同じ美化委員の木南凌(きなみりょう)くんが、私を覗き込んでくる。


「うちのクラスの綾瀬(あやせ)、知ってる?」

「はい。どういう方かは存じ上げませんが。」

「私もよく分からないけど不思議な雰囲気でちょっと気になるんだよね。」


そう言いながら再び視線を自分のクラスへと戻すと、そこには今しがた話題に出た綾瀬がベランダに立ち、空を見上げていた。


「少し、気になるんだよね。」

「綾瀬くんは感性が独特で、顔も綺麗だから女性に人気ですよね。昨日、呼び出しをされているところに出くわしてしまったんですけど、告白されて"キラキラしてないからごめんね"と初めて耳にする理由でお断りしてました。」

「へぇ…。」


独特な感性だということは一応同じクラスなので理解しているつもりだ。

奇行が目立つ訳では無いが、私の目を1番引くのはノートのチョイスだった。

彼は普段からシンプルな文具をよく使っているのに、その中に混じって桜の花びらが描いてある可愛らしい手帳を持ち歩いている。

私は、今年から彼と同じクラスになったので知らなかったが、去年から同じだという私の友達が、去年の5月頃から持ってた気がすると言っていた。


「とにかく終わらせちゃいましょう。まだ6月といえど暑いですし。」

「そうだね。そして早く帰ろう。」


視線を再び雑草が生い茂る花壇へと戻し、除草作業に勤しんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る