その名はウィルバーン ー不適格な精霊騎士の超反撃ー 

えがおをみせて

第1話 精霊騎士失格




「お前は廃嫡だ!! 精霊騎に乗れないなど……、適正Fなど、問題外だっ!!」



 父親、ドネストル・ディア・ハイバーンがわめいている。


 なんだよ、いや、分かっているよ。この国で、この家で精霊騎に適性がないことがどういう意味を持つかって。



 大体なんで適正だけアルファベットなんだよ。



 俺は、アルファンド・ハイバーン。13歳。ハイバーン侯爵家の次男坊だ。



 この国では、いやこの世界には精霊騎なる、ぶっちゃけよう、ロボットみたいのが存在していて、それで戦争を繰り返している。その精霊騎の騎乗適性があるかどうかが、お家の威信に関わってくるわけだ。


 それが目の前の状況だ。


 ハイバーン家は代々精霊騎士を輩出し、この国でも有数の武家として知られている。つまり、この家に適性が無い人間が現れるなど、あり得ない、あってはいけない。そういうことだ。



 ちなみに、俺には前世の記憶がある。



 まあ、在り来たりの話だ。黒い会社で働いて、くたびれて、残業帰りに、頭上からトラックが堕ちてきて、多分死んで、んで、この世界に転生した。まあそういうことだ。ほんと、テンプレって便利だなって思う。


 ああ、お約束の中世風の世界だ。だけど精霊騎というロボットがいるのが特徴か。 


 で、13歳になると、精霊の儀とかいうのがあって、それで精霊騎士になれるかどうかの判定が下される。教会でやるのだけど、黒い石板みたいのに手を付けて、それの輝き次第で適性があるかどうかが判定されるらしい。


 こちとら転生者、石板が砕けて、「ど、どういうことだこれは!?」なんてのを予想していたわけだけど、全くそんなことはなかった。石板は全く反応してくれなかった。



 というわけで、冒頭だ。



 ああ、そっち側かと思いながらも、状況を打開する術が思いつかない。3つ上の兄貴は一線で戦っているはずだし、親父も数日後には出撃するっていう話だった。


 再びちょっと待て、この場合、俺の立場はどうなる? 廃嫡とか言っているけど、そもそも俺は次男だし、継承は兄貴だろうが。親父、怒りに任せて、冷静さがどっかいってないか?


 まあ言いたいことは分かる。要は家の名を捨てろってことだろ。この後どうしたものか。



 ◇◇◇



 そんなわけで、目出度く単なるアルファンドになってしまった俺だが、まだハイバーン家に住まわせてもらっている。親父が出征し、俺の放逐がうやむやになったからだ。


 俺は家の皆、執事やメイドさんたち、はたまた料理人や庭師まで親しくしていたので、えらく同情をしてもらっていた。これ、転生者の基本だ。やっといて良かった。



 とりあえず、日課の図書室へと。これもまあ基本か。いざとなれば知識チートでなんとかしてやろうという心づもりだ。


 ちょっとイラついていたのもあったのだろう。書架から精霊騎に関する本を全部ブッコ抜いて、机に重ねてみた。当然、全部暗記してある。だって、異世界でロボットだぞ。燃えない方がおかしい。



 悔しいなあ。っほんと、悔しいな。



 ずごごごごご。



 勝手に落ち込んでいたら、書架が動き出した。知ってるぞコレ。なんか条件満たしたら、もしくはギミックを解いたら謎の部屋に導かれるってアレだ。


「行く、か? いや、行け、俺」


 ここまで来たら、行くしかないだろ。


 書架の動いた後ろには階段があった。


「あ、明かりがないか……、どうしよ」


 逡巡したその時、扉がノックされた。さすがにマズい。こんなとこ見られたらどうなることやら。俺は息をひそめて居留守を使う訳だが、相手はそれを許さなかった。


 返事をしていないのに扉が開き、二人が入って来た。


「セバースティアン、オクサローヌ……」


「アルファンド坊ちゃま、見つけてしまったのですね」


 セバースティアンはハイバーン家の執事長、オクサローヌは侍女長だ。二人ともランタンを持ってこちらを伺っている。



「あ、あの、これは?」


「こちらは代々の党主様と執事長、侍女長にしか伝えられていない、秘密の、いえ、謎の階段です」


「謎の?」


「階段の底には、とあるモノがあるのですが、それが何なのか、誰にも分からないのです。古代の精霊騎にまつわる何か、とも言われていますが、それすら不明なのです」


「そんなのが、あるんだ」


 冷や汗ダラダラだよ。そんなのが、あるのを追放された俺が知ってしまったなんて、消されても文句言えない。



「お行きください」


 オクサローヌが俺にランタンを渡しながら言った。


「貴方は昔から不思議な方でした。早熟で、聡明で、それでいて身分に関わらず優しい方でした。そして、精霊騎に憧れ続けていた」


「私からも申し上げましょう」


 今度はセバースティアンが言った。


「行って、確かめてみてください。そこで坊ちゃまが何かを為しても、何も見いだせなく戻ってきても、どちらでも良いのです。その扉を見つけたのは、精霊騎を愛する坊ちゃまの心です」


 胸が痛くなってきた。こんなことがバレたら二人はどうなるんだ? いいのかよ、そんなこと言ってさ。


「どうしたのです? わたしたちは、書架の整理に来ただけです。何も見ていません」



「あ、あはは! うん、ありがとう。行ってくるよ」


「行ってらっしゃいませ」



 そうして俺は階段を降り始めたのだ。



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