19日目
頼んでいた充電方法、そろそろ見つけてくれたかな…。
あの医師は信用していないが、カメラはちゃんとついていたし、助けに来てくれたっぽい人もいたから少し期待していた。
朝ご飯を食べて、ジムに行こうとしたら呼び止められた。
「いたーー!」
聞き覚えのある声。
「ルナくんだ。」
「わーーー!」
かなり心配していたらしく、いきなり抱き着かれた。
腰が危ない。
「ごめんね。この国についた時に魔女の家に行きたいって言ったんだけど。」
珍しくルナくんがすぐに離れた。
「うん…ニルスからいろいろ聞いたよ。あと色々見た。」
ニルス?
ルナくんの後ろの男性がお辞儀をした。
助けてくれた上品な男性だ。
「ニルスさんとおっしゃるんですね。あの時はありがとうございました。」
「とんでもない!こちらこそすみません...。船の…。」
「ああ。私の体質のせいですし、船に乗りたくて黙っていたのが悪いので……お騒がせしてしまいすみません。」
深くお辞儀をするとお辞儀合戦になってしまった。
とにかく、ルナくんと合流できてよかった。
「ルナくんは魔女の家まで行っちゃったかな?ちゃんと到着できなくてごめんね。」
しゃがんで、目線を合わせて謝ると、ルナくんは視線をそらし、頭をなでようとする手から逃げた。
驚いて手を引っ込めると、ルナくんは慌てて説明した。
この国は魔素が徐々に壊れていくような場所らしく、さすがのルナくんもこの状態で魔素を削られるのはきついらしい。
「昨日暴れたせいとかじゃないから!」
暴れたのか。
「死人が出てないならいいんじゃないかな。」
ルナくんは目をそらした。
え?殺した?
「ころしてはいないよ!!!ざんねんながら!」
殺そうとしたのか。
聞いてみると、
ニルスさんが自国で補償すると言うので、少し安心した。
あれ、ひとつ5万くらいするって言ってた気がするし。
このまますぐに退院するように勧められたが、充電を頼んでいる件を話したらニルスさんとルナくんが病室で一緒に待つと言い出した。
昼食の時間になり、医師がカートに発電機を乗せてきた。
かなり古いが、コンセントをさす部分が見覚えのある形をしていた。
「50年前に使われたものです。揮発性の油で発電します。
よろしければ設計図もコピーしたのでお渡しします。」
においがきついらしく、ルナくんはマスクをつけた。
これを持っていっても、油臭いってトステさんに嫌われちゃうな。
設計図とにらめっこした。
「発電機の外せる部分をすべて外して、スマホで撮影していいですか?」
「はい?…ならエンジニアを立ち会わせた方がいいでしょう。」
「ではこの発電機をお借りしてもいいでしょうか。」
「いえ、差し上げます。国の許可は貰っています。
なぜか昨日急にまとめて返事がきまして。早急にお渡しするようにと。」
ルナくんはほっぺをふくらませている。
「はやく追い出したいんだよー。」
撫でてあげたいが撫でられないので苦笑いしかできなかった。
「ではエンジニアの仲介をお願いできますか?
荷物もすべてまとめて移動しますので、それが最後のお仕事になります。」
医師はスマホのようなもので何かを探すと、メモを書いた。
ニルスさんがそれを受け取り、お辞儀をして移動をした。
病院の入り口を改めてみると、清潔感があった。
ルナくんが心配そうに見上げる。
「びょうきなの?」
「喘息を起こしちゃったんだけど、この国の空気が汚いからだから出れば大丈夫だよ。」
ニルスさんが病院の受付で電話を借りている。
カウンターの内側に入り込んでいるので少し驚いた。
やり取りが終わったのか、今度は会計を済ませている。
「ニ、ニルスさん治療費って…。」
「ああ。大丈夫です。お話しした通りこの国に払わせますので私は払っていません。
それと、これ。」
処方箋らしきものを渡された。
文字は読めないが、恐らくそうだろう。
「これでお薬をもらうんですか?」
「はい。念のために吸入薬を出してくれるそうです。」
助かる。この世界にもあったんだ。
エンジニアさんのもとにはニルスさんが連絡を取ってくれたみたいなので、薬を受け取ってから向かった。
私の注文通りにできるというので、まず油を注いでスマホとタブレットPCを充電してもらった。
充電が終わった後に撮影させてもらうことにした。
「なかみを撮影してどうするのー?」
ルナくんは工場の中に入れないらしく(くさすぎて)入り口から声をかけた。
「設計図と中の原理がわかれば、魔石で発電できるんじゃないかなと。」
ニルスさんが自国にも電気機器がいくつかあると言った。
その電源はバッテリーで動かしているらしい。
「うちではソーラー電池というものを使っております。曇りの日は光魔法で照らして使っているのですが。それでもその端末を充電できますか?」
「充電コードがこれしかないんです。コンセントはこの国のものは形が微妙に違っているのでこちらを出していただきました。そちらのソーラー電池の接続部分が合ってればつなげられるかもしれません。」
手持ちのコンセントを見せると、ニルスさんは見たことがないと首をかしげました。
エンジニアさんにコードをあわせて作ってもらうという方法もあるだろうな。
「以前もこのコンセントを使う異世界人がきたそうです。あったほうがいいかと思いまして。」
「そうですね。」
ルナくんが苦しそうなので、いったん工場から離れた。
二時間後に戻る約束をして、空気清浄機のついているというレストランへ向かった。
なんとか落ち着き、ルナくんはステーキ、私とニルスさんは簡単なドリンクを頼んだ。
「空気清浄機がないと暮らせないですね…。」
黄色く濁った景色を眺めた。
「年々空気が悪くなっています。警告はしているんですがね。
海の汚染も全然止まりませんし、近年は海にゴミを捨てたりもしているらしいです。この近海の魚を食べようとは思えません。」
異世界に来てまでそんな問題を聞かなければならないなんて。
「今回のことで反省するんじゃないのー?」
ルナくんはお肉を一気に口に入れている。
そんなに頬が伸びるのかってくらい伸びてる。
「どうでしょうね。なんなら戦争を起こして国ごと消えた方が解決につながるかもしれません…。」
ルナくんが目をキラキラさせてやる気満々になっていたので、ニルスさんが慌てて付け加えた。
「が…!魔法学の国も一緒に滅んでしまいますので…‼母国が消えるのは困ります…‼‼‼」
なぜ一緒に滅んでしまうのだろうか。
ルナくんは舌打ちをしていた。
「このあと、発電機を撮影したらトステさんに連絡したいのですが。」
「かまいませんよ。なんなら私がその撮影データと設計図、発電機を届けに行きましょうか?」
「ニルスさんが?スマホ扱えるんですか?」
そういえば病院で電話を使っていた。
「はい。簡単なものなら操作できますので、1度教えていただければ覚えます。」
頼もしい。後光が見える。
「ふたりのみものでたりるのー?おひるだよ?」
そうか、もうそんな時間か。
私は追加で小さめのサンドイッチを頼んだ。
ニルスさんもサラダとパスタっぽい何かを頼んでいた。
この人、モテるんだろうな。
工場に戻ると、充電は終わったようだ。
エンジニアさんは注文通り、中の様子が見える状態で動かしてくれた。
私はそれを撮影した。
一定時間撮影を終えると、トステさんに渡せるように油を抜いて洗浄し、消臭した。
その間に私はニルスさんにスマホの操作方法を教えた。
ニルスさんは1回で全て覚えてしまった。
「では、この3点をトステ様にお渡しします。
ルナ様たちは魔法学の国に戻られるということでよろしいですか?」
この国では転移魔法など使えないので、船で途中まで一緒になる。
魔素が扱える海域になったらニルスさんは異世界島に転移するそうだ。
「魔力足りるの?」
ルナくんが聞いた。
この世界の人が船を使うということは、転移魔法は簡単なことではない気がする。
「次に来る船に上質な魔石を積ませています。ルナ様の回復にもお使いください。」
「やったー。」
ニルスさんの言うとおり、昼過ぎの港にとんでもない大きさの石を乗せたタンカーみたいな船が到着した。
石はほんのり光を帯びている。
「ぼく、半分貰うねー。」
はんぶん!?
「はい、転移は半分でぎりぎり足りると思います。」
異世界島までの距離を転移するのにこの石半分の魔素を使うの!?
途中寄港でトステさんが簡単に転移してきたけど…あれもかなりの魔力を使ったのだろうな…。
数日だが、お世話になった国が離れていくのを眺めた。
門番の中に、BG-39やYZ-99がいるのが見えた。
BG-39は気色悪いけど、YZ-99は救われてほしいな。
PU-80、お前は私のビスケットを食べたろう。絶対に許さないからな。
警戒船で拾ってくれた人…大変だったけど拾ってくれないと漂流して死んでいたかもしれない。ありがとう。
ムキムキ仲介マン。お前は許さない。
看護師さん、優しかった。
……。
ゆっくりルナくんを見た。
魔石の上で寝ている。
落っこちないか心配だ。
「ありがとう、ルナくん。ニルスさん。」
ニルスさんは荷物をまとめ、複雑な魔法陣を描いている。
まもなく油臭い海を抜ける。
「海域の魔素介入確認。転移魔法、発動できます!」
船員さんが合図を出した。
ニルスさんは笑顔で手を振って、お辞儀をした。
光に包まれ、石のサイズが半分になった。
魔法学の国につくと、知らない大人たちに平謝りされた。
誰だが本当にわからない。
とりあえず笑っておいた。
私を小型ボートに乗せた船員さんも、泣きながら謝っている。
船長もなんだかやつれているように見える。
「生きているんでそんなに謝らないでください。
私こそ体質を隠していてすみませんでした。」
ルナくんは港で足りなくなった
いくつ割ったんだろう。
「それって割れると力があふれるの?」
「んとねー。全部封印なんだけど、このくらいだとちょうどいい理性がはたらくのー。1個減るごとに、頭ははっきりするけど興奮して力をドバーッて使っちゃうの。」
「
「そう、だいせいかいー。」
ルナくんがやっと安定したように見える。
頭をなでても逃げなかった。
すっかり暗くなっている。
欠伸をしたら、さっきまで謝っていた大人たちが宿に案内してくれた。
無料らしい。うれしい。
本当に疲れていて、簡単な食事とお風呂を頂くとすぐに寝てしまった。
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