「彼岸」その4

 頭に四肢…そして二足歩行。

 あれば紛れもなくー。

 …人だ。


 人(魂)の中をかき分けるように、その人の所へたどり着こうとする。

 なにか話したいー。そう思っていた。

 何を話すかは思いついてない。ただしばらくぶりに人間の姿を見て、自分と同じ姿の人がいる安心感と親近感から、思わず話しかけたくなったのだ。

『次はー…』

 電車のアナウンスが聞こえた、しかし気にも止めない。

 何とか人魂の波を潜り抜け、もうすぐたどり着くー。


 ことは無かった。


 気づいて貰うために伸ばした手が丁度肩に触れようとした時、


 電車のドアが開く。


 海の返し波に呑まれるように、降りてくる人魂の中でもみくちゃにされた。

 ようやく視界が開けた時にはー、


「…いない」

 人影はいなくなっていた。


 電車の外のホームで途方に暮れる。

 初めて彼岸に来て、初めて発見した自分と同じ境遇の人に話を聞けば、なにか分かるはずだ。そんな淡い期待は藻屑と消えた。


 えも知れぬ喪失感に打ちひしがれていると、

 発車のベルが鳴った。

 ハッと我に返り、急いで中に戻る。

(まずは自分の目的地に着いてからだ。そこでなにか分かるはず)




 自分とよく似た境遇に、自分と少し違った瞳と肌の色の人間と別れ、多くの人が降りたホームから離れていく。


 この満員電車の行き着く果ては、まだ先だ。

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