リンクスとステラの喫茶店~ステラと魔法の料理~

@doumu

第0話「プロローグ」

        


「まほうのりょうり?」


 いま言われた言葉が上手く理解できず、まだ十歳もいかない少女は首を傾げている。


「そうよ。ステラ、『魔法の料理』は別に魔法を使った料理とかそういう特別な料理ではないの」


「んー? そうなのおかあさん」


 ステラと呼ばれた少女は、お尻についているふさふさの白い尻尾を大きく振りながらも首を傾げている。


 そんな愛娘の反応を見て、ステラの母は「ふふ」と笑みをこぼすと、娘の頭を優しく撫でている。


 母に優しく撫でられているステラは、嬉しそうに破顔させている。頭の上についている白い耳も嬉しそうにピクピクと動いている。


「そうよ。『魔法の料理』は普通の料理なの。だけど、やっぱり特別なそんな料理なの」


「ええ! けっきょくどっちなの!」


 母の言っていることがなおさら理解できず、さらに首を傾げている。


「大丈夫よ、ステラ。大きくなればいずれお母さんが言っていることもわかるようになるわ」


「ほんとに!?」


「ええ、本当よ。お母さんが嘘を言ったことなんてないでしょ?」


「うん! そうだね、おかあさん!」


 それを聞いたステラは今日一番の笑顔で笑っている。


 そんな娘の姿を見た母は、ぎゅっとそんな娘のことを抱きしめるのだった。


 これは十年前の出来事。


あの時のわたしは、お母さんの言っている『魔法の料理』という言葉の意味をちゃんと理解することは出来ていなかった。


だけど、いまならお母さんの言っていることが理解できるのかもしれない。


だって、普通の料理が、『魔法の料理』に化けるなんて、あなたと出逢えたから知ることが出来たんだもん。


あなたがわたしのことを見つけてくれたから、拾ってくれたから、だからこそ、いまのわたしがあるのだから。


なんでもないシリアルが、ヨーグルトが。お米がお味噌汁が。本当になんでもない料理が化けてしまうのだから驚いてしまう。


「本当にすごいなぁ~」


 わたしはそう呟きながら、日課になりつつある朝食作りを進めていく。


 お米を研いで炊き始めて、お米を炊いている間におかずを作っていく。


(今日の朝食は、わたしの故郷のご飯にしよう)


 わたしはそう決めると、手早く朝食作りを進めていく。


 焼き魚にたまご焼き。それに葉物のお浸し。それと豆腐とわかめのお味噌汁。


「うん。こんなものかな」


 わたしは作り終えると、普段二人で使っているテーブルにそれらを配膳していく。配膳し終えると、エプロンを外してまだ夢の中であろう同居人の元へと向かっていく。


 寝室に入ると、わたしの予想通り、わたしの命の恩人であるリンクちゃんはむにゃむにゃと気持ちよさそうに眠っている。


 そんなリンクちゃんを見て、わたしとしてももう少し寝かせてあげたい気持ちが湧き上がってしまうのだが、これ以上眠っていると喫茶店の開店時間に間に合わなくなってしまう。


 あの日、路頭に迷っていたわたしを助けてくれただけじゃなく、私にとってはとても大切なことに気づかせてくれた。こうして、一緒にいることを選んでくれた。


 本当に感謝してもしきれないぐらいだった。


「わたしは恩返し出来ているのかな?」


 眠っているリンクちゃんにそんなことを言っても仕方がないのに、わたしはそう問いかけずにはいられなかった。


 それぐらいにリンクちゃんと出逢えた時、わたしの心の色は『虹色』に輝いていた。出会う前までは鈍くよどんでしまっていたのに。


 リンクちゃんと出逢ったことで、もう一度心の色を取り戻すことが出来たのだ。


 わたしは感傷に少し浸ってしまうが、リンクちゃんを起こさないといけないことを思い出し、我に返るとリンクちゃんの元に歩み寄ると優しく声をかけた。


「リンクちゃん、朝だよ。一緒に朝ご飯を食べよう」


 わたしの作った料理があなたにとっての『魔法の料理』になっていればいいなっという願いを込めながら。

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