第66話 久しぶりのダンジョン その1
夏が近いのかすでに夏なのか、最近は日が昇るとすぐに暑くなる。
朝食の後、食堂の窓辺で寝そべるという日課も難しくなってきた。日陰でも窓辺は暑いのだ。
そんなわけで、ここ数日は中庭に積み重ねられている薪の上で寝そべることにしている。建物の壁際に積み上げられているので、一番上に登れば突き出した屋根の影になっていて、ちょっとは涼しい。
「シイラちゃん、おはよう」
ベルナらとの朝食が終わった後、猫に戻ろうと部屋に向かっているところでリスタに会った。
「おはよう」
リスタも朝食を終えたところのようだ。
「最近暑いよねー」
手で顔を仰いでいる。手で風を作って顔に当てる動作だ。同じことをやっている人間をよく見かけるので、私もまねたことがある。ないよりはまし程度の風を感じることができる。
「もう夏なのか?」
と聞いてみる。
「もう夏といってもいいかもね。これからもっと暑くなるけど」
そうなのか。
「で、シイラちゃんも夏服が必要かなって思って、作ってみたからちょっと部屋に来てよ」
久しぶりにリスタの作業部屋に入る。ここはいつ来ても服でいっぱいだ。
「二着作ったんだー。これは、この前エルナさんが描いた絵を元にした寝間着なんだけど、シイラちゃんなら普段着でもいけそうかなって思ってるんだけど、ちょっと着てみて」
そういうと体を持ち上げられて服を脱がされる。
「腕を上にあげてくださいねー」
寝間着とやらを頭の上からかぶされ、頭と腕を通す。
「人形用に作ってたのと基本的なつくりは同じなんだけど、もっと簡単にしたって感じかな。普段着で使えそうね」
足元のスカート部が広がっていて、何かに引っ掛けそうだ。人形用の服みたいなでっぱりがない点は良いと思うが。
スカートを持ち上げてみる。
「この部分が邪魔な気がするが」
両足を押し込む下半身用の服の方が動きやすい。
「もう一着はスカートじゃないのを作ったよ」
そういうと今着せられた服を脱がされる。
下半身用の服に足を通し、上半身用の服を着て体の前でボタンを留める。
「持っている服とよく似ているが」
「生地が薄いんだよねー。風通しがいいから涼しいよ」
そういうことか。確かに軽いし体と服の間に隙間があって涼しいような気がする。
「そういえば、猫ちゃんって体中毛でおおわれてるじゃない? 夏は人間の格好の方が涼しいんじゃないかな?」
そんなことは考えたこともなかった。
「確かに、人間の体の方が涼しいように思う」
風が直接肌に当たると確かに涼しく感じる。
「やっぱりそうなんだー。じゃあ、夏服をあと何着か作っておくね」
そういうと、積み重ねられている布の山から布を手に取る。
「お金はいくら払えばよいのだ?」
「余った布を使うんだし、いらないよ」
「これまでもお金なしで作ってもらっているし、今回は出した方がよいのではないのか?」
彼女は、装備や服を直したり服を作ることでお金を得ている。
「別にいらないよ」
彼女がそういうなら作ってもらうことにするか。
「あ、そうだ。あさってダンジョンの5層に行くんだけど、その護衛してくれないかな?」
ダンジョンか。
「荷物が多くてなにか出てきても対処が困難なのよねー。夏服代は護衛代で払ってもらうっていうのはどうかな」
しばらく行ってないし、護衛を引き受けるか。
「引き受けよう」
ということで、久しぶりにダンジョンに行くことになった。
出かける前日の夜、5層にもっていく着替えを鞄に詰め込む。ダンジョンなので鎧と剣も持っていく。
今回は修復の終わった装備や服を持って行くのが目的だそうだ。なので、初日に5層まで行ってそこで1泊して翌日には帰ってくる予定だという。なので、出発する日の朝のネズミ狩りは、翌日分も含めて4匹狩ることにした。
当日、朝食の後、大きな荷物を背負ったリスタとダンジョンに向かう。荷物が多いこともあり、ダンジョンに向かうパーティーに同行し馬車に乗せてもらうことができたので、ダンジョンの入口にもすぐに到着した。
この入口は二回目に来た時と同じで、ここから3層のキャンプまでは人通りも多く明かりもついているので、何事もなくキャンプに到着した。ここでお茶を飲んで一休みし、5層のキャンプに向かう。
3層から5層は明かりがなく薄暗いが、他のパーティーに同行したので特に問題もなく5層キャンプに到着した。横穴から出てきた大ムカデを数匹退治したが、護衛らしい仕事ができなかった。5層に行く程度なら護衛はいらないのではないだろうか。
「シイラくんじゃないか」
5層のキャンプに到着し、部屋に荷物をおいて食堂でお茶を飲んでいると、聞いたことのある声が聞こえてくる。振り返ると、カイがいる。
今ここに到着したばかりという感じで装備を付けたままだ。パーティーの仲間らしき者に何か指示している。
「久しぶりだが元気そうで何よりだ」
「こんにちは」
リスタもあいさつする。
「どうも、リスタさんでしたね」
「シイラちゃんには護衛で来てもらったんだ」
「そうですか。シイラくんは剣術の練習は今もやってるのかな?」
カイが私の方を見る。
「ああ。朝食の後、カイに教えてもらった通りの練習を中庭で続けている」
「それはよかった。基本は大事だから今後も続けるように」
「そうだな」
日課だし、やめる予定はない。
「カイは何かの仕事を引き受けたのか?」
「ああ。今回は10人のパーティーのリーダーとして来ているのだ」
そういうと同じテーブルの席に着く。
「これまで特に何もないと思われていた8層に新たな洞窟が見つかったのだが、そこの調査に来ている」
確か、7層と9層の洞窟が長くて目的地になることが多いのだったか。
「へー。仕事が増えそうだなー。5層にしばらく滞在しようかしら」
リスタが嬉しそうだ。
「見たことのない魔物がいるので、その坑道はかなり長いと考えられている」
カイのパーティーの一員が持ってきたお茶を飲むカイ。
「シイラくんも一緒に来ないか。狭い坑道が多く、その先がどうなっているか調べてもらえると助かるのだが」
それは興味深い。
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