第31話 任務完了

4日間の測量士の護衛任務は完了。

3日目、4日目は、すでに何度も煙を横穴に流していることもあって、2層では大ムカデやらが大量に出ることはなかったそうだ。逆に10層では、煙にひかれて出てくるやつが意外と多く忙しかったが、コルレア、カイ、それに私の3人で対処した。退治したり追い払ったりと、やったことは2日目と同じなので説明は省略しよう。


ただ、最終日に下層から上がってきた巨大なダンジョン・ポイズン・ワームとかいう、毒をもった蛇みたいやつにはちょっと苦労した。口から噴き出す粘液や体液に毒があって下手に切り付けることができず、燃やすと毒ガスが発生するとということで手の付けようがなかったのだ。結局、私とカイがおとりになって測量士から引き離したり、コルレアの熱波で押し返したりでなんとか対処した。


4日間で計画していた横穴の調査はすべて完了、測量士は帰りの道中機嫌が良かった。まとめた内容を元に坑道の地図に横穴の繋がり具合を加えるそうだ。


最終日、白兎亭に戻ったのはすでに日も暮れてからだった。リスタの作業場で服を脱いで猫に戻り、久しぶりにいつもの寝床に入る。

翌朝夜明け前、4日分のネズミ狩りも忘れない。今回得た能力は猫としての能力も向上させたようで、跳躍力が倍増した。暗いところでも見えるようになっているので、ネズミ狩りなんかはいとも簡単にできるようになった。4日間放置したことでネズミも活発に活動するようになったようだが、ダンジョンの魔物に比べるとネズミは弱すぎてほんの短時間で必要な数を仕留めることができた。こうも簡単に狩れることがアリナさんに知られたら、別の仕事もさせられるかもしれないな。



翌日、朝いちでギルド本部に報告に行くということで、再度集まることになった。私も人間に変身し、リスタに作ってもらった普段着用の服装に着替え本部に出かける。


ギルド本部に到着する。すでに魔法使いのエドガルが来ており、測量士助手のフラキノと何か話している。もう一人の魔法使い、コルレアもちょうど到着したところだ。ギースとカイもやってきた。


「剣を使って戦うのが初めだったにしてはよくやったな」

カイが私に話しかける。

「そうだな。剣術を教えてもらったおかげだ」

「教えるのは初めてだったが、役に立ったようで何よりだ」

体の小さい私が戦うのに適した剣術を教えてもらったのだが、有用だった。


「カイの方も初仕事がうまくいってよかったな」

これをきっかけに他の仕事もできるとよいのだが。

「そうだな。ようやく第一歩だが」

カイもこの初任務が成功して嬉しそうだ。


「二人ともよくやった。カイ、おまえもこれで仕事のコツをつかんだだろ」

これはギース。

「だといいのだが」

笑顔で答えるカイだが、まだ心配なのだろうか。


「みんなそろったかな。報告は完了し報酬も受け取ったから君たちの口座に振り込んでおいたよ」

セブノワがギルド本部の奥からやってくる。

今回の測量はギルド本部の依頼ということあって報酬も良くみんな嬉しそうだ。


「レクタ結晶も買い取ってもらうのを忘れないように。報酬は全員で分けるかな」

セブノワがカイに向かっていう。この結晶とやらは、3日目に10層から5層のキャンプに戻ってくる際、セブノワに教えられた坑道の脇道で拾ったものだ。何かの薬、病気やケガを直すために食べるものだそうだ、を作るのに使えるのだという。

「ああ、そうだったな」

カイはそういうと背負っている鞄から包みを取り出す。


「そうだ、毒ムカデの針も売らないとな。これは2層組で分配ってことでいいよな?」

ギースが測量士と10層組に向かっていう。

「2層で退治したのだからそれでいいだろう」

測量士がこたえる。10層組のみんなも同意する。

「それと、みなさんの活躍についても報告しておいたから」

みんな嬉しそうというか満足そうな表情ということは、この報告というのは良い話なのだろう。


報酬も受け取りその場は解散となった。測量士と助手は次の測量について打ち合わせるという。

ギースはエドガルを誘ってまだ午前中だというのに飲みに行った。カイは次の仕事を探すそうだ。コルレアは宿に帰るという。私も白兎亭に帰ることにする。昨日帰ったのは夜遅かったし、ベルナにはまだ会っていない。いろいろと準備してくれたし、無事戻ったことの報告はしておいた方がいいだろう。



白兎亭に戻りベルナの部屋に行こうと階段を上っているところでベルナと出会った。

「あ、シイラちゃん」

ベルナが駆け寄ってくる。

「けがはないですか? ゆうべは遅かったんですか? キャンプでは眠れましたか? 10層はどうでしたか? 毒ムカデは出てきましたか? 服は洗濯しないといけませんよ。あ、それとお風呂もです」

私に駆け寄りしゃがんで私の両肩を掴むと立て続けに質問してくる。


「ケガはしていない。それと、帰ってきたのは昨夜遅かった、それと...」

質問に答えているとベルナが遮る。

「あ、ここではなんですから、食堂、あ、まだやってませんから中庭で話しますか」


今は昼前で食堂は開いていないので中庭に移動し椅子に座り一通り状況を説明する。

ベルナはどの話も興味深そうに聞いてくれたが、特にコルレアが使った魔法に感心を持ったようだ。


「その魔法使いさんは経験豊富でレベルの高い方ですね」

ベルナが感心している。

「同行した若い男の魔法使いも、彼女のことは経験豊富だといっていた」

エドガルは最初年齢のことをいっていたようだったが。


「そうですよ。熱波を放つのはすごく高度な魔法なんです。炎を壁の形状に保つのも難しいですし、それをそのまま前に押し出すのはさらに難しいんですよ。私も見てみたかったです」

ベルナは杖を動かして魔法を使うようなしぐさをする。


「そういえば、初日の夜に魔法使い二人と魔法について話したのだ」

コルレアとエドガルとの話を思い出す。

「何を話したんですか?」


「色々話したのだが、コルレアには私の属性を調べてもらった。木の属性が強いということだった」

「え? そうなんですか?」

ベルナが驚いている。

「ベルナに教えてもらった魔法だが、火属性は私には習得できないそうだ」

「そ、そういうことになりますね」

なんかちょっと恥ずかしそうな表情だ。属性が違う魔法は習得できないことを知らなかったのだろうか。いや、魔法使いなんだから知らないはずはないと思うが。


「私が魔法を使うには、同じ属性の魔法使いに教えてもらうか、学校とやらに行く必要があるということだった」

「た、確かにそうでしたね」

思い出したという感じだ。ということは忘れていたということだろうか。


「ベルナは学校に行ったのか?」

「私は、村、いえ街の魔法使いの塾で習いました」

「塾?」

「はい。一人の魔法使いの先生が教える小さな学校のようなものです」

なるほど。ということは、ライゼルのような遠くに行かなくても魔法を学べるのかもしれない。コルレアらがいっていた、魔法使いに教えてもらうというのが、この塾とやらなのだろうか。


「それから、属性に関係のない魔法を教えてもらった」

エドガルに教えてもらった空間魔法で、しまっておいた木の実を取り出してみせる。


「え? く、空間魔法を使えるようになったんですか?」

ベルナが目をまるくしている。どうやら驚いているようだ。

「まだこれくらい大きさのものをしまえる程度だが」

取り出した木の実をつまんで目の前に持ち上げる。


「そ、それでも、た、たいしたものです」

たしか、ベルナは空間魔法は使えないといっていたな。

「そういえばコルレア、この魔法を教えてくれた魔法使いだが、彼女によれば空間魔法はたいていの魔法使いは使えるといっていたが」

またベルナが目を丸くしている。

「え? あ、あの、た、た、たいていというのは、ぜ、全員って意味では、あ、ありませんからね」

なんかあせっているような感じだな。


「たしかに、そういう意味ではないな」

「そ、そうなんです」

うなずいているが、ベルナの顔がちょっと赤くなっているのが見える。なんなのだろう。

まあいいか。


「ダンジョンに着ていった服は洗濯しないといけませんよ。それとお風呂も入ってくださいね」

気を取り直したのか顔色が元に戻っている。


「洗濯はしておかないといけないな」

汚れたまま放っておくと、汚れが落ちにくくなるということだったか。

「洗濯がまだなら今からやりましょう。洗濯の仕方は教えましたから、ちゃんとその通りできるか見てあげます」

ベルナははやり世話好きだ。

「そうだな。リスタの作業場に置いているから持ってくる」

ベルナと一緒にリスタの作業場に向かい、剣士用の服装を洗濯場に向かう。鎧も汚れがついているので一緒に運ぶ。


「そういえば、洗濯場を利用するにはお金が必要だが、お金は持っていない」

白兎亭は、宿泊代に朝食代は含まれているが、洗濯場や風呂はそれぞれ一回1シルバ必要だ。

「私が持ってるので大丈夫です」


「口座から出して返さないといけないな」

「1シルバですから別に構いませんよ」

「いつもというわけにもいかなし、いくらかは手元にお金を置いておくようにする」

「それがいいかもですね」


洗濯場に到着する。何人かが洗濯していて、私に気づいた人間が挨拶してくるので返事する。

ベルナにお金を払ってもらい、大きな桶と洗濯用の石鹸とやらをもらう。

桶にお湯を入れ、以前ベルナに教えてもらった手順で洗濯を始める。特に何もいわれないということは正しいということだろう。

鎧も汚れに水をかけて手でこする。


「鎧は手入れをするための道具があるようですから、買っておいたほうがいいですね」

「そうなのか」

「はい。後、剣も手入れが必要ですよ」

「なるほど。鍛冶屋に行って聞いてみるか」

剣や防具の手入れはカイに聞いてみるのが良いかもしれないな。


「このあとはお風呂ですよ」

そうくると思った。

「風呂は夜に一人ではいるから」

逃げ切れるか。

「あー、入らないつもりですね?」

お見通しか。

「まだ、風呂には早いし」

実際、昼に風呂に入る人間はほとんどいない。それにお金を持っていないから、風呂に入るとなればまたベルナにお金を出してもらうことになる。とにかくこの場をしのげれば風呂に入らずにすむはずだ。


「ダンジョンに4日間も行ってたんですから、必ず今日入ってくださいね」

ここには猫を風呂に入れようとする人間がいないのはよいのだが、人間になると風呂に入れとうるさい。以前の同居人には時々風呂で体を洗われたから、ここでもたまになら風呂に入ってやっても構わないとは思うが、人間の風呂は頻度が多すぎる。


「風呂は自分のお金で払いたいから、ギルド本部でお金を出してくることにする」

「あ、それはいいですね」

ベルナがちょっとうれしそうだ。


ダンジョンに着ていった服を一通り洗濯。桶の水を捨てて新たに水を入れて服に着いた石鹸を洗い落とす。これを何度か繰り返し、洗濯は完了。洗った洗濯物は、白兎亭の二階から外に出たところ、屋根はなく一階の屋根の上に作られた広間のような場所に干すところがある。干す場所は男女別に別れているようだ。


洗濯ものは、広場に張られたひもに引っかけるのだが、高くて手が届かないのでベルナに手伝ってもらう。もちろん飛び上がれば届くしひもを緩めて垂らせば手は届くのだが、すでに洗濯物が干されていて、緩めると洗濯物が床に付いてしまうということでできなかったのだ。


「洗濯のあとは何するんですか?」

「このあとは猫に戻って寝転がって過ごすつもりだ」

「猫らしいですね」

猫だし。

「でも、お風呂のためのお金をギルド本部に引き落としに行くんですよね?」

余計なことをいってしまった。

「そうだったな」

「必ずですよ」


日が暮れるまでごろごろして過ごそうと思っていたが仕方ない。午後しばらくしたら出かけるか。

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