第30話 護衛任務開始

「大ムカデは私が対応しましょう」

コルレアがそういうと、後ろに下がりこっちを振り返る。その方がよさそうだ。火蜥蜴サラマンダーに炎は効かないらしいからな。

「シイラはこっちをお願いします」

ムカデを見ながら後ろに下がり、十分離れたところで振り返る。

3匹いた火蜥蜴が2匹しかいない。1匹は逃げたのか。


「私の作業が中断しないよう、このあたりに来ないようにすることが目的ということを忘れないように」

測量士が呼びかける。そうだったな。倒すのが目的ではない


「なかなか去らないので、さっきから膠着状態だ」

カイが私の方をちらっと見る。


「あと2つ煙を流せば昼食だ。それまでになんとかしてもらえるとよいのだが」

なるほど。ここでにらみ合っていても仕方ないな。


「私が反対側にまわって挟み撃ちで対処しよう」

私は体が小さいので、すり抜けて回り込めるはずだ。


「それがよさそうだ」

カイはそういうと数歩踏み出す。火蜥蜴も一歩踏み出してくる。

「私はいつでも大丈夫だ」


その時、後ろでコルレアが毒ムカデに向かって熱波を放ったようで、空気の流れで体を後ろに引っ張られる。前にいる火蜥蜴が一瞬視線をそらす。今だ。坑道の側面を駆け上がり、体を回転させて天井を蹴り火蜥蜴を飛び越える。

前にいたやつが私の動きを目で追い体の向きを変える。そこにカイの剣が振り下ろされる。決まったと思ったが、火蜥蜴が叫び声をあげながら首を振り回し、口から炎を噴き出す。体がこっちを向いていたおかげでカイや測量士らは問題ない。私も、もう一匹の火蜥蜴が影になって炎の直撃を免れた。

炎を受けた火蜥蜴も雄たけびを上げると、もう一匹の方に飛びかかり二匹が格闘を始める。二匹とも炎を吐き出しながら尻尾を振り回し大暴れするため、よけるのが精いっぱいで近寄れない。


「離れるんだ!」

カイが叫ぶ。確かにこの炎では近寄れない。岩陰に隠れる。


「毒ムカデは追い払いました」

コルレアもカイの近くに来ているようだ。

「横穴に逃げていきました」


「さて、挟み撃ちできているわけだが、どうしたものか」

剣を構えたカイも、暴れまわる二匹を眺めるだけだ。私も岩陰から覗くことしかできない。


「こっちに注意を向けさせましょう」

コルレアがそういうと、左手を前に出す。

「シイラはそこに隠れていて」

左手から噴き出た炎が取っ組み合う二匹の火蜥蜴に向かって一直線で延びていく。

炎を受けた二匹が戦いをやめ、コルレアとカイがいる方を向く。つまり私に背を向ける。

尻尾を狙い剣を振る。先端部だが二匹のしっぽを切り取ることに成功。私に気づき振り返った二匹の背中にカイが切りかかる。一匹には剣が深く入ったようで動きが鈍くなる。もう一匹は浅かったようで逃げ出す。私の方に向かってくる。体格は私よりはるかに大きいので、正面からは無理だ。横か上に飛んでよけるかと思ったが、腹が弱点であることに気づく。火蜥蜴の歩幅に合わせ、少し後ろに跳びながら体を倒す。私を飛び越える火蜥蜴の腹が正面に来る。剣を突き出す。浅く入っただけだが、飛び越える動きに勢いがあったおかげで、首の下あたりから尻尾が始まるあたりまで一直線に切り裂く。私を飛び越え着地するが、次の一歩が出ないようだ。叫び声をあげ暴れている。立ち上がり後ろからとどめを刺す。カイの方も倒したようだ。


獲得した経験値は300か。痛み耐性と跳躍力が増したらしい。人間への変身能力のような際立ったものはそう簡単には得られないようだ。


ようやく二匹を退治し昼食。助手のフラキノが私の弁当の量を気にしていたが、特に問題はなかった。白兎亭で出される猫用の食事よりは多いが、今日は運動量が多いこともありちょうどよかったくらいだ。


午後、もう一匹の火蜥蜴や大ムカデや毒ムカデが何度か現れたがなんとか対処し、その日の作業は完了した。5層のキャンプに戻る際、他のパーティーと合流したこともあって、大サソリやワームとかいう大きな蛇のような奴の襲撃にも協力して対処しながら5層のキャンプに戻った。


キャンプにはギースら2層組が先に戻っていたが、くたびれ果てていた。装備も傷だらけだ。


「カイ、それと猫、こっちは散々な目にあったがそっちはどうだった?」

私たちを見つけたギースがいう。

「追い払うのが目的だったのであまり戦えなかった。火蜥蜴は倒したが。そっちは何があったんだ?」

カイがたずねる。

「また大ムカデの大群と毒ムカデだ。煙が充満してよく見えねえわで大変だったんだよ」

たしかにこの前は大変だったな。

「そうですね。あんな大群は私も初めてで」

2層にいった魔法使いの若い男、エドガルも苦労したようだ。


「おまえはよくやった。大群を吹き飛ばしてもらったおかげで何度か助かった」

ギースがエドガルの方を見る。彼も熱波を放てるのだな。

「そうです。お二方ともよくやってくれました。ただ、さすがに数が多すぎましたね」

測量士の助手も服があちこち破れている。

「何度か大ムカデにかまれましたよ」

測量士が足をさすっている。


「そっちはやはり大変だったか」

測量士が助手にいう。

「はい。煙に追われたムカデやら虫が大量にあふれ出してきました。それと、葉っぱではないものを燃やした煙もあがってきましたね」

「ああ、それは大量の虫が燃えたものだな」

コルレアが燃やした虫の大群か。


「それと昼飯の前にはあの毒ムカデが出てきやがった」

これはギース。これもコルレアが追い払ったやつか。

「エドガルと一緒にやっつけて、また毒針を回収してきたぜ」

この前もいい金になったやつだな。


「お二方の活躍もあり、初日の予定は何とかこなせました。10層の5つの横穴が2層の5つの横穴に繋がっていることが確認できました」

助手のフラキノが手帳を見ながら話す。

「それと3層とここのキャンプでもいくつか報告がありました。4層と6層、7層、9層でも煙を確認したそうです」


「なるほど、思ったよりつながっているようだな。後で報告を聞こう」

セブノワが感心している。


10層での初日は何とか終わったが、これが後3日続くのか。

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