恋するプリンとゆるルン密着旅
紫恋 咲
第1話 行ってきまーす!
「ついに出発だな
父の無責任極まりない一言で出発する。
両親の経営しているカフェの前で、今俺は呆然と立ち尽くしている。
買ったばかりの自転車へ両サイドに荷物の入ったバッグをつけ、背中にリュックを背負っている。これからあてのない旅へと出て行くのだ。いや行かされるのだ。
なぜこんな事になってしまったのかと言うと、それは両親の出逢いが関係している。父は大学生の頃自転車で日本一周の旅に出た。その途中空腹に倒れそうに
なった父を助けてくれたのが今の母だ。食堂の娘だった母は、そんな父を見兼ねてまかないを食べさせてくれた。残り物の唐揚げを卵でとじた親子丼だ。父はそれが世の中で一番美味しいものだと信じて疑わない。
そんな事はどうでもいいが、2回も大学を途中で辞め将来を考えあぐねていた俺に、父は「世の中を観てこい!」と自転車を買って送り出してくれた。
「1ヶ月でも1年でもいい、自分らしさとやりたい事を見つけたら帰ってこい」
それが父から言われたことだ。
母は「無事に帰ってくるのよ」と、ただニッコリ微笑んでいる。
実際のところそんなあての無い旅など行きたくも無かった、しかし断るのに充分な言い訳を持ち合わせていなかったのだ。
結局オレは出発する事になってしまった。
井の頭公園近くにあるカフェは北欧風の建物でオレンジの瓦や白い窓が特徴的だ。
俺はお店の厨房でアルバイトしていた。母は他のアルバイトの子達と同じ待遇で働かせてくれたので、貯金もそれなりに有った。しかしこんな事で貯金を使う羽目になるとは思わなかった。
お店の前にある『cafe autumn』の木彫り看板が、心配そうに俺を見ているような気がする。
「マジ行くのかよ…………」言葉に出来ないため息が漏れる。
葉桜の街路樹は若葉が萌え出て爽快な初夏を感じさせてくれた、気持ちとはウラハラに。
「行ってきます………」そう言ってサドルと憂鬱を踏みつけ走り出す。
歩道を歩いている高校生や子供連れの主婦が目に映った。何気ない日々の住人に見えた。俺は不安な未来から逃げ出すようにスピードを上げる。
五日市街道から環七へ向かう。あての無い旅と言っても何も無いと何処へもいけないので、前から興味のあった中山道へと向かう事にする。
環七に出ると飲み物が欲しくなりコンビニの駐車場へ自転車を止めた。
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