第9話 帰り道

 旅の日は重なっていた。

 武蔵の国は、もう遠い。


 一行は大津に着く。京が近い。

 ここへ来て、加流はなにか硬い風情である。

 業平が一人でいるところへやって来た。

「業平様」

「なんだい」

「申し上げたいことがございます」

「言ってごらん」

「差し出がましいことと存じますが、都で、もとの暮らしに戻った中ではお伝えしにくく」

「いいよ、聞こう」

「では、申し上げます。業平様、人は歳を取るものでございます」

「うん」

「いつまでも、今のように若くしていらっしゃることはできません」

「うん」

「そろそろ身を固めてはいかがかと」

「承知。心がけておく。ありがたい」

 

 業平は、加流を見つめて微笑んだ。

 無邪気な笑顔。何の悪気もない。これが女の気を惹くのだろうかと加流は思った。

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