むかし、むさし野で
森野雅戸
第1話 式女のこと
時は平安時代。
その
名は、確かでない。女に限らず、朝廷では表立って、本の名を呼ばれることはなかったから、実際、本名を知らぬ者のほうが多かったのだ。
ただ、その女の親類が式部省の役人であったので、あだ名のように「式女」などと呼ばれ、「かの式女」とでも言えば、誰もがその女を思い浮かべるのであった。
彼の女の父は、宮廷に出仕していたというが、位階はまだ低かった。
ある時、式女の父がお仕えする宮人が、
東国へと向かう主人に、父は付き従うこととなった。
式女は、父のほかに身寄りもなく、朝廷の殿ばらとは幾つも噂があったものの、誰とも縁づいていなかった。
それで、ともに武蔵に旅立つことになったのだ。
武蔵野の広大な原野。初めて見る鳥や獣。
あたり一面に広がる、
体を包む自然の景色が心の
国守として四年の任期が終わり、かの宮人が都へ帰る時。親子はしたがわなかった。そう、ここ武蔵野に居着いたのだ。
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