第3話 神崎はツン死ねである

 家に帰ると俺はすぐにベッドへダイブする。


「はぁ……俺、ほんとにどうなってるんだよ?」


 それでも、家に帰ってくるまでで、石川さんのみしか心の声を聞くことはなかった。


 どうやら、そこら辺は前と変わらないらしい。


 この能力は特定の人しか聞こえないのだ。

 それも、女子のみだ。

 もし、全員の心の声が聞こえてしまったら俺は絶対に病むだろう。


 しかし、ほんとになんでこのタイミングなんだ?

 石川さんが関連してるのか?


 いやいや、そんなわけない……。


「まぁ、難しいことは考えるなってことか……」


 多分あれだ、これは「昔お前が耐えきれなかったことに耐えろ!!」という神様からの命令だろう。

 いや、本気で言っているわけではないぞ?

 でも、そういうことにしておこう。

 となればだ……。


「見てろよ!! 俺は絶対にこの能力を克服してやるよ!!」


 そう気を引き締めて、訪れた次の日──。


「おはよ、拓哉!!」

「おうよ、雄也!! てか、隈がひでぇ〜な」

「そ、そうかぁ〜まぁ、徹夜したしな」


 こいつみたいに何かに夢中になれる力が俺にも欲しい。

 俺は比較的飽き性だ。

 そのため、ゲームなんて買ったところですぐに飽きる。


「そうかよ、まぁ、授業を寝ねえように今のうちに寝ときな」

「やだわ、授業中に寝るに決まってるだろ」


 今のところは何もないな……。

 どういう基準で心の声が聞こえるんだろうか?

 

 今はよくわからないが、今後はそれを探すのも課題だな。


 と、その時だった──。


『今日も寝癖がある……ばか、雄也』


 その声は神崎の声だった──。


 俺は慌てて、周りを見渡す。


 そして、神崎が視界に入ると今来たところというのが、スクールバッグを持っているところからわかる。


 どうりで先ほどまでは聞こえなかったわけか。


 神崎の心の声はしていた頃に聞くことのできた一人だったわけだ。

 そのため、今回も聞こえるのか少し気になっていたが、聞こえるようだ。


 ふと、俺と目が合う神崎。


 すると、神崎はふんっ!! とそっぽを向いて椅子に座った。


『す、素直にならなきゃ……でも、雄也なんて嫌い!!』


 昔から変わらねーな……俺にツンツン当たってくるところ。


 少しは違う反応を楽しみにしていたが、全然昔と同じだった。


 でも、神崎と石川さんを合わせて見ればなんらかの答えになるヒントが出てくるのか?

 と思ったが、石川さんをよく知らないため、意味が無いような気がする。


 早いうちに規則性を知る必要がある。

 女子だけというのは昔の時点でわかっている。

 そこから、更に縛られるのはどういう規則性があるのか気になるところだ。


 それでも、今のところは昔ほど気持ち悪くはならない。

 それは、まだ二人しかいないからだ。


 昔なんて何人もの人の声が聞こえたものだ。


 中には『自殺したい』など相当病んでいる人もいた。

 そういう人の心の声は本当に気持ち悪くて心にきたものだ。

 できれば、今回はそういうのには会いたくないものだ。


「今日も神崎さんお前に冷たいね!!」

「うるせぇ〜よ」

「ああいうのを、ギャルゲーだとツンデレって言うんだぞ?」

「いや、ギャルゲーで例えるな……たしかにツンツンはしてるけどよ? デレデレはないぞ? むしろ死ね死ねだ」


 俺が何をしたのだろうか?

 さっぱり、理解に欠けるぜ。


「うわ、死ね死ねとかツン死ねってか? なんも萌えもねぇ言葉だな、おい」


 やれやれ……少しこいつの心の声が聞きたい気がするぜ。


 きっと、ギャルゲーで染まってんだろうな。


「お前らほんとに幼馴染か?」

「そうだよ」

「普通幼馴染っつーのはさ? 仲良いじゃん?」

「それは二次元の話だ」


 現実はそんなに甘くはないのだ。

 俺ももう少し、神崎と仲良くしたい。


「なら、二次元に……」

「行かねーぞ? 何がなんでもぜってぇーに行かねぇ!!」


 神崎のことを考えていると自然と神崎の仕草をまだ追っていた。


 まぁ、俺の視線に気づいた神崎は俺に向かって中指を立てた。


 にしても、すげぇな、こいつの人を気配する力みてーなのはよ。


「来いよ、こっち来いよ!!」

「やなこった」


『また、チャンスが……バカ、変態!!』


 やれやれ、やはり、神崎は『ツン死ね』だな。

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