じゅうに

 昨晩を思い出してなんだかモヤモヤしながら起床。

 相変わらずミナトは僕を抱き枕にして寝ていた。

「案外慣れてしまうもんだな」

 ミナトの拘束を優しく解きながらとりあえず水を飲んでトイレに向かう。

 そのまま朝食を作りながら今日は何をしようかとのんびり考える。

 毎日このくらいの時間になると朝食の匂いにつられてなのか、習慣なのかミナトが目を覚ましてくる。

「おはよう、ミナト」

「ん、おはよう……」

 寝ぼけ眼をこすりながら返事を返すミナト。

 それだけ言うと部屋に戻るのも一種の習慣なのかなんなのか。

「朝ごはんできたよ」

 テーブルに朝ごはんを置く。

「ん、いただきます」

「いただきます」

 サンドイッチを美味しそうに食べるミナト。

 足りないのか僕の皿からも取っていく。

「具材余ってるけど作ろうか?」

「奪うからこそうまい」

 ……朝食はあまり取らない派だからいいんだけども。

「最近ちゃんと朝ごはん食べれてるから健康」

「食べてなかったのか?」

 うん、とミナトはサンドイッチを飲み込みながら頷く。

「病んだのが最近だから。食べる余裕もなくて」

 なんて声をかければ良いのかわからない。

 最後のサンドイッチを奪いながらミナトは続ける。

「多分同じ様な理由だよ。学校がつまんなく感じて、ずるずると」

「僕は病むって程まで言ってないけど」

 また手刀が入る。

「最初に扉開けた時の顔で否が応バカでもわかる」

「……そんなに?」

 そんなに。と言いながら完食するミナト。

 結局サンドイッチは一つしか食べれなかった。

「となると、ある意味でここはサナトリウムか」

「まぁそうなる」

 食器を片付け洗いに行くミナト。

 ここがサナトリウムだとして。

 僕とミナトはちゃんと傷を癒せるのだろうか。

 まだわからないけど……、少なくともミナトの傷は埋めてあげたい。

 この夏休みと言う短い期間の間で、埋めきれるかはわからないけど。

 ――好きな人が傷ついているのは、嫌だ。


 またミナトが昼寝をしてる間に考える。

 どうすれば良いのか。

 下手に干渉しようとして傷が開いてしまっては意味が無いし。

 そもそも自分が気づけてない傷心状態に陥ってる以上、他人の傷心なんて治せるのか。

 寝顔を見ながら、考えているとミナトが目を開く。

「なるほど」

 ミナトは何かを察したようにあくびをしながら笑う。

「ミナト様に惚れてるな?」

「顔洗って寝ぼけ覚ましてきな」

 つまんなーいと言いながら顔を洗いに行くミナト。

 いつまでこのミナトのボケに付き合えば良いのかわからない。

 付き合いきれるかわからない。

 本音がいつ出てしまうか、わからない。


 もしかしたら限界が来ているのかも知れない。

 隠しきれる自信がない、つい弱った時に零れてしまいそうで。

 ……それをミナトがどう受け入れるかがわからなくて、怖い。

 また、わからないと言われるなら良いけど。

 僕を信頼して頼りに来たミナトに、好意を懐き続けてしまっている数日間があるだなんて。

 言いたくても、言えない。

 関係が壊れてしまうのが、怖い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る