モラトリアムxサナトリウム
るなち
いち
大学を辞めた。
別に人間関係が悪かった訳じゃない。
それに学業不振だった訳でも無く、何か問題があった訳でも無い。
只々、大学と言う物に疲れてしまったのかも知れない。
夏休みが始まる前に大学を辞めたので期末試験に追われることもなく、何もない空白の時間を持て余していた。
幸いにも貯金はある程度あったし、仕送りも当面の間は続けてくれるらしく一人暮らしに関しては何の問題も無かった。
そう思っていたのは、一週間だけだった。
僕にはミナトと言う幼馴染の女の子が居る。
高校までは一緒で、大学からは別々の道を歩んでいた。
別に疎遠になった訳でもなく、たまに一緒にゲームしたりくらいの仲を保っていた。
「夏休みの間、家に泊めてくれない?」
大きな荷物を抱えて僕の家にやってきたミナトに僕は何も言えずにただ頷くしかなかった。
「家出してきたの?」
「ちょっと違うかも知れない。別に家出のつもりではない」
じゃあなんで、と聞こうか迷ったけど聞くのは辞めることにした。
何か事情があって来たのかも知れないし、深く入り込まない方が良いかなって。
ミナトは自由気ままと言うか、とてもとてもマイペースな人間だ。
「眠い」
「……ベッド使いなよ、僕は
うん、と頷いたミナトはそのままベッドに転がった。
「少しだけお話しよ」
「良いけど、何の話?」
その話の時点で僕は気付けたんだと思う。
ミナトは僕の事を心配して家にやってきたと言う事実に。
「それで……って、ミナト?」
「うん……」
数分、十分も経たないくらい。
朧気な、とても微睡んだ返事が帰ってくる。
あぁ、この娘はもうすぐ眠りに付くんだと誰でもわかるくらいの声、吐息。
僕の家まであの大荷物を持ってやってきたんだ、そりゃ疲れるに決まってる。
話を区切り、ミナトをそのまま夢の中に行かせてあげることにした。
ミナトが寝てる間、僕は特に何かをするわけでもなく。
起こさないように静かに本を読んだりして過ごしていた。
一週間、同じような生活をしていた筈なのに。
なぜだか、妙に安心感があった。
「おはよう」
数時間後、ミナトが目を覚ます。
「おはよう、晩御飯食べる?」
「うん」
とは言っても家に食材もないし、外に出ようにもミナトは寝起きだし。
しょうがなくカップ麺を取り出す。
「これでいい?」
「今日はそれで許してやろう」
唐突に家に来て、すぐ寝ておいてこれである。
「好きなの選んでいいから」
「一番美味しいので」
はいはい、と個人的にお気に入りの奴を取り出しお湯を沸かす。
「んで、元気になった?」
「また唐突に……別に元気じゃないわけじゃ――」
背伸びをしたミナトに頭を軽く叩かれる。
「嘘を言うでない」
「……そうかも知れない」
考えてみれば大学を辞めてる時点で元気はなかったのかも知れない。
そんなことを考えているうちにお湯が沸く。
お湯を入れて、三分待って。完成。
割箸がどっかにあったなと探そうとするとミナトは持ってきた大荷物を漁っていた。
「お箸は持ってきた」
「断られたらどうするつもりだったの?」
うーん、とミナトは少し考えてから笑顔でこう言ったのだ。
「どうせ入れてくれるだろうから」
彼女にはどこまでも勝てない、そう感じた夕飯だった。
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