はちゃめちゃ
@dayuo666
第1話 未知との遭遇
夜の住宅地は驚くほどに人気がない。テストの採点に時間がかかりいつもより帰宅時間が遅くなってしまった。そのため幽霊が出そうなほど薄暗い道を歩く羽目になってしまった。普段歩いている道と同じだというのに何故こんなにも不気味に感じるのだろう。
たかだか数時間の差だというのに不思議でならない。ホラーの定番ではこの後人影を見たりどこからか音が聞こえてきたりするだろう。ドン!ドン!ドン!
そうそうこんな風に。
「えっ?」
本当に音が聞こえてきたことで脳内は少しパニックになり心臓の鼓動が早くなる。何故物語の登場人物は音や人影で逃げないのかずっと疑問に思っていたが今わかった。好奇心が恐怖を超えるのだ。今まで馬鹿にしていたホラーの登場人物たちよ。今ここで謝罪をしよう。私も同じバカでしたと。
さて、私は音のなるほうに吸い寄せられていく。27年という長いか短いか微妙な人生がもしかしたら今日終わるかもしれない。勉強と仕事に追われただけの人生だった。彼氏もできず、そもそも友達もいない。これは死んでもいいのではないだろうか。そんなことを考えつつ音の発生源へと近づいていく。そして思った。これはホラーの音ではなさそうだと。音そこそこ大きいし、近くの家にも聞こえているだろう。
ただ日本人特有の私たちは関係ないです方式で誰も注意せず無関心を装っているだけなのだろう。そう考えると今日の私は少しおかしい。疲れて頭が正常に機能していないだけかもしれない。
音につられ歩くこと数分。音の正体をようやく見つけた。真っ暗な闇の中、街灯が照らす下に止まる一台の車。と、その上で金属バットを振り下ろす二つの人影であった。聞こえてくるのはバットが車を破壊する音と子供の笑い声だけ。光景と状況だけでみればホラーといってもいいのではないだろうか。こんな時間に子供が出歩いているだけでもおかしいのに、その子供が車をぼこぼこにしているのだから。この場から逃げるか少し迷うも職業柄、この時間に出歩く子供を放っておくことが躊躇われた。殴られるかもしれないと思いながら、ゆっくりと近づく。
「きゃははは!ぶち壊せー!」
「あはははは!ぶっ潰せー!」
声をかけるのを躊躇うような言葉が聞こえる。が、ここでひいては教師として負けだ。勇気を振り絞り声をかける。
「君たち何してるのかな?」
笑い声がピタッと止まり場を静寂が支配する。しばしの静寂後、車の上の二人組がゆっくりと振り返る。
「やべ見つかった。」
「もしやこの車の持ち主?」
「持ち主なら悪い奴だな。」
「悪い奴ならぼこぼこだ。」
不穏な言葉だ。
「この車とは縁もゆかりもありません!」
慌てて発したので子供相手に敬語になってしまった。
「違うの?」
「残念。」
「じゃあなんで声かけてきたんだろ?」
「変な人?」
「師匠がいってたやつか。」
「あれか!ろりこん。」
「それ!ん?でも女の人だ。」
「じゃー違う?」
話しながら二人は車の上から降りてきてこっちに近づいてくる。近くで見るとなかなかの美少女であることがわかる。
「なんで車をぼこぼこにしてたの?」
私は率直に聞くことにした。話は通じるようだし。
「この車止めちゃいけないところに止めてる。」
「つまり悪い奴が乗っている。」
「悪党は成敗するのだ。」
「悪党を撲滅するのだ。」
この子たちはアニメかなにかの影響を受けているのかもしれない。ヒーローやヒロインにあこがれた記憶は私にもある。ここまで過激に影響はされなかったけれど。このことを親はしっているのだろうか?あとで車の賠償請求が届いて知ることになったらと思うとぞっとする。
「こういうことはしちゃだめなんだよ?お母さんやお父さんはこのことを知ってるの?」
「お母さん?」
「お父さん?」
「いないよね。」
「うん、いない。」
まずい。複雑な家庭環境の子たちなのだ。もしかしたらネグレストされこんな時間まで出歩いているのかもしれないし、もしかすると暴力を振るわれているのかもしれない。このまま家に帰していいのだろうか?いいわけがない。この子たちの保護者にガツンと言ってやらねばならない。これは教育者としての使命である。
「帰る?」
「帰ろう。お腹すいた。」
不審がられようとここはいくしかない。
「ね、私が家まで送ってあげようか?夜だし危ないよ?」
「いいよ。」
「OK。」
思ったよりあっさり許可が出た。心配になってしまう。でもそうか、この子達金属バット持ってるもんね。
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