第三十九話「絶望の女王」

 Side 緋田 キンジ


『クイーン・ゼレーナ!?』


 まさか言語を使うとは思いだにしなかった。

 それも女性でだ。


『私は学んだ。様々な世界の人間の事を。そうして私は思った。人間の素晴らしさと恐ろしさを』


『素晴らしさと恐ろしさ?』


 リオは困惑する。


『我々ゼレーナはあらゆる平行世界に存在し、そしてある一定水準の文明を観察し、データーを収集し、そして――殲滅するか、家畜にするかの選別を行い、また別の文明を探し出す』


『えげつねえ生態してやがる……』


 もしもゼレーナの創造主がいたとしたらとんでもない極悪人か偽善者の集団だろう。


『喜べ。貴様たちは私達の家畜になるのだ。その驚異的な軍事技術と新たな文明を探る当てるための平行世界のゲート――私は何としても手に入れたい』


 言ってる事はグラン皇帝とたいして変わらん。

 ただの世界征服宣言だ。


『この声――ソフィア姉さん――』


 そしてフィア・バハムスは何かを思い立ったように飛び去った。

 場所はクイーン・ゼレーナがいると思わしき銀色の巨大戦艦にだ。


『キンジ、追うよ!!』


『ああ!!』



 道中の敵を蹴散らしながらクイーンゼレーナの元へと向かう。

 

 銀色の巨大戦艦。

 全長にしておよそ数kmほどある超巨大戦艦だ。


 彼方此方で戦いが勃発している。


 クイーンゼレーナはブリッジの中。

 様々なケーブルに繋がれていた長い白髪の美しい女性だった。


「ほう、ここまで辿り着くとはな――この小僧と同じく並の実力者ではないらしい」


『お前がクイーンゼレーナ?』


『似ている――ソフィアお姉さんと――』


 とフィアが言う。


『ソフィアお姉さん? そう言えばさっきもそんな事言ってたな』


『ええ、ずっと行方不明になっていたんです――死んでいたと思ったんですが』


 その答えはスグに出た。


『それはそうだ。この体はソフィア・バハムスと呼ばれる女性の体だ』


『『『なっ!?』』』


 一瞬思考が凍り付いた。


『このソフィア・バハムスの記憶によれば、バハムス帝国はかなり昔から異世界への渡航実験を繰り返していたらしい。この女性は皇帝の怒りに触れて――』


『皇帝の手で異世界に放り出されたのか!!』


 と、フィアは泣きながら言った。


『その通りだ。そして私達はあのAliceの少女達がいる世界で出会った。私はソフィアの記憶を調べていくウチにある計画を思いついた――』


『この世界を並行世界の巨大な交差点にすることか』


 俺はそう答えた。


『ああ、そうだとも。帝国が行った召喚魔法に干渉し、その結果は混沌とした世界が出来上がった』


 つまりコイツは一連の騒動の黒幕の一人らしい。

 こんなところで全てのピースが繋がるとは。


『あとは知っての通りだ――さあて、最後に聞いておこう。私に従うか、従わないかだ』


『答えは決まっている! 断る!』  


 フィアが率先して答えた。


『お姉さんは優しい人だった。そんな事は言わない! だからこの手で終わらせる! 全てを!』


 そして俺はそんなフィアの後頭部を軽く殴った。


『な、なにを!?』


『熱くなり過ぎだぜ坊主? 俺達もいる事を忘れるなよ』


『うん、そうだよ。キンジや私だけじゃない。大勢の人達が味方してくれる』


 俺とリオはそうフィアを諭す。


『それにまだ姉さんが救えないと決まったワケじゃない』


『愚かな――救うだと? 私が依り代にしているこの女を? 面白い事を言う』


「不可能なんかじゃありません!!」


 そこにAliceの少女、愛坂 イチゴと、


「そうだ!! Aliceの少女に不可能はない!!」


 御剣 トウカが現れた。

 二人とも無事ではないがまだ戦えそうな感じだ。


『今度はAliceの少女か――まあいい、纏めて始末してやろう』


『来るぞ!!』


 艦橋を中心に船体の一部が変化していく。

 まるで翼を持った二本角の邪神の上半身のようだ。

 居合わせた人間が皆必死になって攻撃するが――


『Aliceだろうと魔力だろうと、たかだかパワードスーツで何が出来る?』 


 と全方位攻撃で一蹴されてしまう。

 

『どうするキンジ?』


 応戦しながらリオが尋ねてくる。


『一点突破だ――弱点をどうにか見つけて全ての火力を叩き込むしかない』

 

 と、返した。

 

『想像以上にヤバい状況のようだな――』


 プレラーティ博士から通信が入って来た。



 Side フィア・バハムス


『まさかこのタイミングでソフィアと対面する事になるとはな――』


『アルク兄さん――』


『お互いの全魔力を開放してぶつけるしかない』


『……』


『まさかこの期に及んで助け出すとか言い出すんじゃないだろうな?』


『はい、助けたいです』


『――は、バカもここまでくると見事なもんだ。じゃあ救って見せろ』


『はい!!』



 Side 愛坂 イチゴ


「私達のAliceの力を結集してぶつけるしかないと思うんです」


「確かにこのまま長期戦になれば不味いな――他のAliceも集めよう、成功確率を一パーセントでも多くあげるんだ」


「はい!!」



 Side 緋田 キンジ


『死ぬ前の相談は終わったか?』


『ああ、お前を倒す相談はな。後は場当たり的な運任せの大勝負さ』


『何をするつもりだ?』


 そして複数の光の柱が彼方此方で。

 そして様々な機体が星のように輝き始めた。

 マジックメイルやAliceの少女が何をしたかは分からないが、俺達――パワーローダー組はリミッターを解除した。


『最後の大勝負だ!! 行くぞ!!』


『なっ!?』


 絶対的に優勢を誇っていたクイーンが押され始めていく。

 修復速度よりも破壊速度が勝っていく。

 

 皆の力でクイーンの各所が破壊されていき、小爆発を引き起こしていく。


 でも足りない。

 

 これではまだ手が届かない!!


『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 殴る。

 殴る。

 殴る。


 ひたすた殴り倒して装甲を破壊していく。

 そしてクイーンレジーナの驚愕の表情が見えた。


『ソフィア姉さぁあああああああああああああああああああん!!』


 そこにフィアが飛び込み、ソフィアを抱きしめて離脱。

 最後はAliceの少女たちが――


『いっけえええええええええええええええええええええええええええ!!』


 本当に人が成しえる技なのか少女達が星になって船体を。

 周囲のゼレーナを破壊していく。


 そして――

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