第三十八話「帝都決戦」
Side 緋田 キンジ
あの場をランシスに任せて俺達はアルバトロスに乗り、帝都へと向かった。
「ゼレーナが巣ごと帝都に向かってるだって!?」
佐伯 麗子から驚愕とも言える報告を受けた。
「目的は分からんが――既にゼレーナと帝国軍とで戦闘が開始している。フィア皇子達は民間人を逃すために急行したようだ」
「しょうがねえ、俺達も付き合うか――」
その決断にキョウスケは
「人が良すぎるだろ隊長。まあ、だから俺達はついて来たんだろうがな」
と返す。
「それにイヤな予感がする」
「イヤな予感って?」
リオが尋ねて来た。
「皇帝って異世界を進行するための準備をしていたんだろ? そこに何処からか紛れ込んだかもしれないゼレーナが来た。最悪の可能性は――」
俺の言いたい事が分かったのか皆顔を真っ青にする。
佐伯 麗子ですらそんな表情だ。
「まさかゼレーナの奴、帝国が作ったゲートを利用して俺達の世界に!?」
キョウスケが俺の言いたい事を代弁した。
「最悪だ。まだ決まったワケじゃない」
と、俺は言うが
「でも、どの道民間人の人達を放置はできないよ」
リオがそう訴えて来た。
俺は「そうだな」と言って出撃準備を整えた。
☆
Side フィア・バハムス
まさかこんな事になるなんて最悪だ。
帝都で民たちの避難をさせているが――
『デスモンド!! 状況を分かっているのか!?』
ゼレーナと一緒にデスモンド達、帝国兵が襲い掛かって来た。
民達を犠牲にしてでも僕を殺したいらしい。
僕は民達を守る様に立ち回っているので上手く戦えないでいる。
『分かっているとも!! ここで貴様を殺せば今迄の失敗を帳消しにできる!!』
『もう僕の言葉が届かないか……』
などと諦めていたその時――
『こんな形で決着をつける事になろうとはな』
『父上まで!! アナタまでこの状況で戦いを仕掛けるおつもりですか!?』
物語の魔王のようなあの禍々しいマジックメイルを身に着けた、グラン・バハムス皇帝が現れた。
親衛隊の連中も一緒である。
『民などと言う有象無象など、幾らでも増える。なんなら今回の犠牲を全てお前やあのゼレーナとか言う連中のせいにしてしまえばよいのだ』
『アナタと言う人は!!』
人の情は一欠けらでも残ってるんじゃないかと何処かで願っていた。
だがそんな気持ちは吹っ切れた。
もう皇帝には人の情なんてものは存在しない。
悪の独裁者だ。
『ぬう!?』
皇帝に向かって攻撃が飛んでくる。
現れたのはキンジとリオさんだ。
『他の連中は避難誘導とゼレーナの対処に回っている!! それとまだ数は少ないが此方の味方についてくれる帝国兵も出始めている!!』
と、簡潔に状況を説明してくれた。
それにしても帝国兵の中から味方してくれる人がいるなんて。
『独裁国家の屋台骨なんて脆いもんさ。滅びる時はあっと言う間だ。後は滅ぼして国を再建するだけだな』
『このグラン・バハムス皇帝の前でよく吼えるわ若造が』
『そもそもお前が欲出して世界征服なんか前時代的な事を考え出さなけりゃよかっただけの事だろうが』
『どうやら死にたいようだな!! 守りたい民もろとも吹き飛ぶが――』
そこで攻撃が中断された。
見覚えのある攻撃だ。
『皇帝――もうアンタにはついていけねえ』
『火のマグナスか』
三将の火のマグナスだった。
『皇帝には恩義があります。運命を共にする覚悟もありました。だけどもう付いていけません』
『裏切るつもりか?』
『言った筈です!! ついていけないと!! アンタのやり方で世界を統一したとして、一体どれだけの人間が死ぬんですか!? 実現した世界でもどれだけの人間を殺すおつもりですか!?』
『だからこそ絶対的な力が必要なのだと言っておるだろうが!!』
『狂ってるな――』
自然に俺は呟いた。
マグナスの訴えなど、どこ吹く風だ。
『話は終わりだ!! 纏めて消え去るがいい!!』
『――消え去るのはお前だ!! 皇帝!!』
マグナスは口調を変えて皇帝に飛び掛かる。
俺とリオはそれを咄嗟に援護した。
『この程度で揺らぐワシではないわ!!』
と、マグナスを振りほどき、相変わらずの巨体に似合わぬ信じられない機動性で襲い掛かって来た。
☆
帝都上空。
皇帝の親衛隊。
ゼレーナ。
自衛隊。
日本軍。
反乱軍。
Aliceの少女。
などなどが入り乱れての大乱戦と化していた。
俺達は気が付けば異世界へと通ずる門と思わしき付近に辿り着いていた。
そこにゼレーナ達が次々と集結している。
やはりこいつらの目的はコレだったのか。
うっすらとだがビル群の風景が。
日本の首都にあるランドマーク的な建造物が見える。
少なくともゲートの向こう側は日本である事は間違いない。
『日本まで侵攻するとは呆れた支配欲だよ!!』
『それの何が悪い!! 所詮、世の中など、支配するかされるかなのだ!! 支配されないためには圧倒的な力で邪魔者を消し去る!! それが何故分からん!!』
『お前と会話していると頭が痛くなってくるよ――昭和のアニメのラスボスかよ……』
そんなやり取りの隙をついてフィアが一閃する。
『フィアか!! 父親を殺すつもりか!?』
『アナタは存在しちゃいけないし、皇帝になんかなってはいけない人だったんだ!! その間違いを正すためにも、ここで倒す!!』
二閃、三閃。
相手との体格差を物ともしない一撃が皇帝に叩き込まれていく。
援護したいがここまで激しい接近戦を展開されたら手が出せない。
せめて邪魔者を排除する。
『バカな!? この皇帝がこんな小事で倒れるだと、この皇帝が!?』
『終わりだぁああああああああああああああああ』
そして最後の一閃。
胴体を貫き、機能を停止した。
皇帝の親衛隊と思しき人々は動揺が広がっている。
『終わったな――と言いたいが、まだゼレーナの連中がいるぞ』
『うん――』
今、フィアはどんな心中なのか察する事はできない。
だが今は非情ではあるが、イヤでも奮い立たせなければいけない時だ。
『この世界の人類よ――初めましてと言うべきかな? 私はゼレーナと呼ばれる存在の女王、クイーン・ゼレーナだ』
そして――今度は帝都全体に届いているであろう声量で妖艶な女性の声が響き渡る。
同時に遠方から白銀の巨大戦艦がやって来る。
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