第八十九話「俺の気持ち/私の気持ち」

 Side 緋田 キンジ


 最後の作戦について説明された。


 その内容は特攻と言うか力技と言うか何と言うか驚きの方法だった。


 自衛隊も動かせる戦力は全て動かす。


 ヴァネッサも出せる戦力も全て出し、パワーローダーも新型を出せる分は全て放出する算段のようだ。


 作戦の第一段階として動かせる戦力を全てロストエリアに動かしている最中だ。


その間でも世界中でフォボスとの戦いが続いている。


それは日本でも同じだ。


 正直言うと助けに行きたい気持ちもあるが最終作戦を控えている今、出動するワケにもいかない。


 歯痒い気持ちとはこの事か。


「で、リオ? 話があるってなんだ?」


 向こうの世界とは違い、夜でも星があんまり見えない空。


 プレラーティ博士の施設の人気の少ない場所で俺とリオは二人きりになった。

 今の状況でこう言う場面だ。

 どう言う話をするかは分かる。


「自分でも上手く言えないんだけど――その、本当は出撃しないで欲しいの」


「奇遇だな。俺もリオにそう言いたかった」


「……そう、だよね。だけど無理だよね」


「止めないのか?」


「戦う事の大切さは身に染みているから。だけど今はキンジを失う事が怖い。でも止めちゃいけないって分かっているのに――」


 俺はリオを抱きしめた。


「ごめんなリオ。俺も上手く言えないんだけど、一緒に戦って欲しい」


「私に戦って欲しくないって言ったのに?」


「俺も本当はそうしたい。けどリオはさっき言っただろ? 戦う事の大切さの意味って奴を――」


「うん……」


「俺は――ずっと逃げてばかりの人生だったかもしんない。現実から目を背けて戦いに逃げていた。それが俺の正体だって最近気が付いたよ」


 両親を思い出す。

 俺の戦う理由の根っ子には、ただあの二人に反抗するためだった。

 認めたくはないがそれは変えようのない事実だ。


「そんなことない。そんなことないよ」


「時には逃げることも大切だ。だけど今は戦う時なんだ。フォボスとノアと戦う決心がついたとかじゃない。これから先のこと――“俺とリオ”の十年、二十年先の事を――それを考えるためにも、その未来を勝ち取るためにもフォボスとノアをここで倒す」


「……私はバカだから、キンジの言う事よく分かんないけど私のことを大切に想ってることは分かった」


「そうか」


 それから少しの間抱きしめ合って。

 俺は意を決したように言った。


「俺はリオのために戦うよ」


「じゃあ私はキンジのために戦う」


 そして俺とリオは唇を重ねた。



 最後の戦いの準備が整った。

 向こう側の世界――リビルドシティに戻り、ノアが明けたゲートの前に可能な限りの戦力を集結させる。

 

 地球側でも何処の国が何時フォボスの先遣隊に核兵器を使うか分からない状況だ。

 世界中の戦力も持ちこたえられないだろう。

 このままじゃ戦後世界どうなるか分かったもんじゃない。

 

 フォボスの下に辿り着いたとしても俺がいた世界の地球上で部隊を展開させるフォボスをどうにか出来る手段があるのかどうかも分からない。


 そもそもフォボスとノアを倒せるかどうかも分からない。


 博打の要素が多すぎる。


 その博打の要素を少しでも減らすためにも最初はノアが作ったゲートにありとあらゆる無人兵器を突っ込ませて遅れてから俺達が突っ込む事になった。


 パワーローダーの装備も変更し、大型のブースターユニットとキャノン砲、ミサイルポッドを内蔵した緑色の戦闘機のようなバックパックをつける。


 宮野一尉やランシス達もアインブラッドタイプに身を包んでいる。

 ヴァネッサ曰く出せる限りのアインブラッドタイプを出し尽くしたとか言ってたな。

 

 此方の戦力は出揃った。


 作戦開始まであと僅かだ――

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