第七十三話「学校」

 Side 緋田 キンジ


「へえ。ここには学校もあるのか」


 俺は感心したように言う。

 自衛隊でも基地周辺で学校を開いているがそれに負けない設備である。


 狭山君とシズクさんが教壇に立ち、授業を行っていた。

 町の代表者である狭山君曰く、教師不足らしい。

 それに狭山君も学校の成績はいい方ではない高校生であり、シズクさんの補佐がないと授業が成り立たないらしい。


 まあ、本人が言うにはこの世界の子供は学習意欲が高いので教え甲斐があるらしい。

 確かに授業を見学しているとそんな風に感じた。


 ふと日本の学生時代を思い出すと肩身の狭い思いをしたものだと思う。


 眼前に広がるような感じではなかった。


「どうしたのキンジ?」


「いや、ちょっとな……」


 どうやら顔に出ていたようでリオに心配された。

 いかんなこれは。


「せっかくなんで色んなお話をしてくれませんか?」


「色んなお話?」


 唐突に狭山君に提案される。


「あ、もちろんバイオレンスなのは多少脚色する感じで――生徒達の質問に答える感じでお願いします。最悪自分でも分からないとかそんな感じで誤魔化してもらって大丈夫です」


 との事だった。


 俺は「まあそれなら――」


 と言った感じで質問に答えることにした。


 これがいけなかった。


 なにしろ質問を答える内容がとても難しい。


「どこからきたの?」


 と言う質問は「狭山君と同じ世界から来た」で切り抜けられた。


 そして次に来た「ジエイタイってどんな職業なの?」と言う質問は難問だった。


 狭山君もしまったと言う顔をしていた。


 なにしろこの質問、自衛隊ですら答えるのも難問だ。


 だからと言って子供の前で「武装した災害救助隊です」とかは論外として、「憲法九条うんたらかんたらで軍隊ではない武装組織です」とか答えるのもアレだ。


 だからと言って日本の軍隊と言うのもなんか誤解を与えそうな気がする。


 本当に難しいのだこの質問は。


 ある程度誤魔化すのは仕方ないと思った。


 なので――


「日本の組織で日本の人のために働く組織だよ」


 と、答えた。

 

「軍隊じゃないの?」


 ほら来たと思った。

 当然そう言う質問が飛んでくる。

 なので先程の狭山君からの助け舟通りにここは――


「うーん、実は自分達もよくわからないんだ」


 と答えておいた。

 実際そうだしな。

 

(自衛隊って本当になんなんだろうな――)


 この世界では好きに暴れまくってるが元の世界では色々と罵倒されたりしている。

 元からして矛盾を孕んだ組織だ。

 だけどこれだけは言っておおう。


「でも人のために頑張るお仕事なのは確かだよ」


 と、言っておいた。

 後は後輩や日本国民の皆様に丸投げするような感じでこの質問を乗り切った。



 一通り質問に答えた。

 答え辛い質問から簡単に答えられる質問まであって、色々と苦慮したが楽しかった。

 

 代わりにリオが答える場面もあった。


 やがて時間が過ぎて休憩時間になり教室外で――


「すいません、まさかあんな展開になるとは」


 狭山君が頭を下げる。


「いえ、自分も勉強になりました」


 俺もそう言う。

 確かに大変だったが楽しかったのは事実であるし。


「――また教壇に立ってもいいかな?」


「あ、立ってくれるんですか?」


 狭山君が意外そうに言ってくれた。


「ああ。学校って嫌な思い出が多かったけど、ここの学校と地球の学校は別物みたいだしな」


 俺はそう言って明るく過ごす教室を見た。


 この世界で教師か――自衛隊辞めたらここでそれするのも悪くないかもしれないな――


 などと俺は考えていた。


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