第五十三話「ヴァネッサの正体」

 Side 緋田 キンジ


 戦後処理はこの土地に駐留していた他の自衛隊の部隊に任せて、シップタウンで使わせてもらっているガレージに主だったメンバーが集合する。


 ちなみにパワーローダーを運んできてくれた大型航空機、マザーバードはシップタウン外部に置いてある。


「さて、私の何から聞きたいですか? 流石に年齢とか3サイズは――」


 などとヴァネッサは茶化してくる。

 俺はため息をついて「正体を明かしてくれと話した」


「ハッキリ言いますと二重スパイですね」


「二重スパイ?」


 リオが珍しそうに言った。


「敵の内部に潜入して味方の有利になるような情報を探って味方に教えるお仕事の人と言う認識で構いません」


 と、丁寧にヴァネッサはリオに教えた。

 この世界では良くも悪くも単純だからスパイと言う概念が分からない人もいるだろう。


 説明自体は特に問題はない。


「スパイなのは何となく想像していたが二重スパイってのはどう言うことだ?」


 キョウスケの言うとおりだ。

 スパイなのは何となく分かっていた。

 

 出なければリビルドアーミーの最初の会談をセッティングなんて出来ないだろう。(第二十三話「思想の対価」参照)

 だが二重スパイとなるとまた話は変わってくる。


「二重スパイってなんなの?」


 当然の疑問をパメラが投げかけてくる。


「スパイのフリをして敵の内部に潜り込んでるのに敵に対して有利な情報を流し続ける人の事ですね」


「つまりどういうこと? 私そんなに頭よくないんだけど?」


 お手上げ気味にパンサーが尋ねる。

 少々ややこしいが「つまり敵じゃないんだな?」と締めくくる事にした。


「その通りです。私は表向きはリビルドアーミーのうさんくさいスパイキャラを演じていました」


「自分でうさんくさいって言っちゃってるよこの人……」


 気持ちは分かるぞキョウスケ。

 俺も同じ気持ちだ。


「で、ここからが本題です。本来の雇い主はレジスタンスであり、そしてプレラーティ博士です」


「プレラーティ博士? どっかで聞いたことがあるような、ないような……」


 キョウスケは頭を捻って思い出そうとする。


「恐らく偽名でしょうね。青髭のお話の元になったジル・ド・レェ元帥に関わりがある人物ですね。暇なら日本のネットで調べてみるといいでしょう――」


 ヴァネッサは軽く解説してくれた。


「で? そのプレラーティ博士ってのがヴァネッサ――君の雇い主なのか?」


「はいそうです。プレラーティ博士の目的と私の目的は合致していましたしね」


「日本で戦った連中のことか?」


「はい。その通りです」


 どんどん謎が解き明かされて線で繋がっていくのを感じる。


「プレラーティ博士やヴァネッサはどうしてフォボスと戦うんだ?」


 キョウスケがそう問いかける。


「プレラーティ博士は分かりませんが、私は――仲間や故郷の仇でもありますから」


 ヴァネッサの雰囲気が変わった。


「そもそも私はこの世界の人間ではありません。かといって緋田 キンジ様達の世界の住民でもありません。他の並行世界の人間なんです」


「「なっ!?」」


「「「え!?」」」


 俺達は驚いた。

 ここに来てまた他の世界の住民?

 

「プレラーティ博士もそうですよ?」


「これどうする? 上に報告するか?」


「正気疑われる内容だが――嘘をついている気配もないが――今はともかく最後まで話を聞こう」


「そうするか、キンジ」


 俺は「続けてくれ」と、話を進めることにした。


「私が元居た世界は人類同士でパワーローダーを使った戦争をしていました」


「まさかさっきの戦闘で使っていたパワーローダーはその世界の?」


 先程の戦闘を思い出しながら訪ねる。


「はい、その通りです。これでも私は地球連邦軍の特殊部隊に所属していましたが内乱が起きました」


「内乱?」


「原因は地球連邦の腐敗ですね。当然民衆は不平不満の声を挙げますが、それを強行的に封じ、民衆はさらに過激な手段で腐敗を正そうとして、地球連邦はそれに対抗するためにより強硬な手段で――を繰り返していくうちにと言うやつですね」


「それがヴァネッサの世界か」


「ですが、それを調停する存在が現れました」


「フォボスか」


 俺は結論を先に答えた。


「その通りです――奴は調停者を名乗りましたがやってる事はより過激な武力の弾圧でした。相手が地球連邦だろうがなんだろうがお構いなしです」


「話のスケールがデカくなってきたな……で、どうなったんだ?」


 キョウスケは呆気に取られながら話の続きを促す。

 

「奇跡的に退けましたが――残ったのは荒廃した世界です。一部の人間は考えました。フォボスがやったように他の並行世界にいって資源なり何なり得て建て直せばいいんじゃないかと」


「その一人がヴァネッサなのか」


「そうです緋田様。いや~最初は自分たちの運の無さを嘆きましたよ。まさか元の世界よりも地獄な世界と繋がるなんて――もしかするとフォボスはそこまで計算していた可能性もありますね。私からは以上です」


 少しばかりの沈黙。

 最初に言葉を発したのはパンサーだった。


「まあ難しい話で理解が追い付かない部分があったけど敵じゃなくてウチらの味方ってことでいいんでしょ?」


「そうだな。その解釈でいいか」


 俺もパンサーの解釈に乗っかることにした。


「私が言うのもなんですがそれでいいんですか?」


 珍しくヴァネッサがあきれた様子を見せた。


「強いて言うなら、もっと早くパワーローダーを回して欲しかったな」


 キョウスケが愚痴を言う。


「それは私の予測が誤ったとしか言いようがありません。それに資源不足でしたから――これでも急ピッチで完成させたんですよ? それに戦力を過剰に増強させると早い段階からフォボスに目を付けられる可能性もありましたから――」


 とのことだ。

 彼女は彼女なりに色々と考えてくれていただろう。


「レベルが低い状態でラスボスと戦うような状況は確かにごめんだな。わるい」


 と、キョウスケは納得したようだ。


「今はフォボス云々は置いておこう。問題はヴァイパーズだ」


 俺は話を切り替えることにした。


「ヴァイパーズですが、此方の掴んだ情報によると陸上戦艦で打って出るつもりのようです」


「なっ!?」


 陸上戦艦と言うワードを聞いて俺は驚いた。

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