第10話 10、私たちは赤の他人
絢梨と奈子はまるで示し合わせたように、志希と向かい合う場所に座る。志希は居心地悪そうに顔を合わそうとしない。
「なんなん。2人して説教なんて止めてや。」
「まさか。そんなつもりはないよ」
絢梨はそう言うが奈子は違ったようだ。
「後になって後悔しても知らないぞ。」
「・・・・」
「何を拘っているのか知らないけど、人が二度と逢えなくなるってどういうことか分かってるんだよね。お母さんはそれが分かってるから、わざわざこんな時間にこんな場所まで来てくれたんじゃないの」
普段よりも低いトーンで話す奈子はまるで別人のようだ。奈子の強い言葉を聞いて振り返った志希も、普段の朗らかな印象とは打って変わり鋭い瞳で2人を見る。
「・・・奈子さんは俺の家の何を知ってそういうこと言うん。分かったようなこと言わんといてや。子どもを全否定して自分の価値観を押し付けてくる親なんて、邪魔なだけや」
「私はね・・・・!」
奈子が言い切るのを待たずに、志希は勢いよく椅子から立ち上がり階段を駆け上がって自室へと戻っていった。
「奈子ちゃん・・・」
隣で険しい表情をしている奈子に絢梨は優しく声をかける。
「分かってますよ・・・。余計なお世話ですね。」
「・・・そんなことないよ。奈子ちゃんが言ってることは・・・正しいよ。」
絢梨は分かっていた。二度と逢えなくなるとはどういうことなのかを。実際に失ってみなければ分からない。本当に逢いたいと思った時にはたいてい、もう間に合わないのだということを。
絢梨の言葉に奈子は達観したように遠くを見つめながら答える。
「・・・でも。私たちは毎日生活を共にしてるけど、結局・・・家族でも何でもない赤の他人ですからね。あんまり干渉もできないですよね。・・・・じゃあ、おやすみなさい」
奈子はそう言い残してダイニングを出て行った。絢梨には奈子の最後の言葉が突き刺さっていた。
『家族でも何でもない赤の他人』
確かに本当の家族ではないことは分かっている。でも絢梨は、『福幸堂』に集う人々のことを『家族のよう』に思ってきた。小5で母を、中1で父を、そして高1で祖父を失い、それ以降は祖母と兄と3人で暮らしてきた絢梨は、親戚だらけの大家族の中でも何となく孤独を感じていた。『福幸堂』を経営していく中で自分が欲しかった温かい家の雰囲気を作ってきたつもりだった。
でも今回、いざという時には『赤の他人』の言葉は通じないのだということを証明されてしまったような気がして、絢梨は複雑な思いになった。
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