第4話 4,身勝手な伯父と従兄

涼は母の兄である賢三伯父さんの息子で、絢梨の従兄である賢人の息子、つまり従甥だ。


「涼って、賢人の息子よね??お母さんにとってはひ孫?」


「・・・賢ちゃん、奥さんに逃げられたんだもんね」


「ええ?!そうなの!?その話知らないわ」


「賢人に関しては我が初孫ながら恥ずかしいよ。今時、お嫁さんを召使のように使って逃げられるなんて!」


「ええ!?賢人はいつの間にそんなことになってたの。で、お兄さんはなんて?」


「・・・・。俺はそんな風に育てた覚えは無いって言うんだけど・・・。家で賢三の姿を見ながら育った賢人がそんな子になったんだ、多少は賢三にも責任がある」


絢梨にとって4つ上の従兄である賢人は絢梨の兄である辰也よりも年上で、祖母にとっては目に入れても痛くない程かわいい初孫だった。でも、ある時から賢人はお盆や正月の集まりにも顔を出さなくなって、当然涼もこちらには来ていなかった。今どんな生活をしているのか知っている人は少ない。でも流石に、妻に逃げられたという噂は祖母と絢梨の元にも届いた。妻には浮気をしていた事実があり、親権は父親である賢人になったというわけだ。


「それで結局、夏休みの間、涼くんをみる人が居ないからお祖母ちゃんに頼ってきたってこと?」


「まあ、そういうことだね。・・・正直、賢三や賢人の為に何かしてやるつもりは全く無いんだけど、何の罪も無い子どもが困っていると聞くとね・・・。断るわけにもいかなくて」


それはその通りだ。話を聞いた絢梨は祖母に宣言する。


「心配しないでお祖母ちゃん。私もいるし、福幸堂のみんなだってきっと、涼くんの相手してくれるはずだし、京都で独りぼっちで過ごすより涼くんにとって良い夏休みになるよ」


「そうよお母さん。大人の事情についてはこちらがあれやこれや考えても仕方ないわ。本人たちが片付ける問題よ。涼くんのことだけ考えればいいのよ。あーあ。でも結局うちの兄妹の中で平凡に幸せになったのは隆三にいだけか」


隆三は祖母の次男で4兄妹の3番目、柑奈の兄で絢梨の母の弟だ。とても優しい奥さんをもらって子どもも2人いる。


「ちょっと。止めなさい。」


絢梨に気を使って祖母が柑奈をたしなめる。


「お祖母ちゃん、気を使わないで。お母さんは結局、なんで居なくなったのか分からないし、もしかしたら今頃どこかで幸せに暮らしてるかもしれないじゃない」


そんなことを話しているとあっという間に時間は過ぎて、絢梨が昼食の片づけをしていると、今度は柑奈がこんなことを言い出した。


「お兄さんといえばさ、この家処分してお母さんを京都の家に連れていくという話はどうなったの?」


「ああ・・。あんな話無視してるよ。だって、ここが本家なんだよ。前島家はここから始まったんだ。おじいさんは元々婿養子だからね。ここは正真正銘私の家なんだよ」


祖母はこの話に関してはとにかく頑なだ。自分が死ぬまでこの土地は絶対に手放さないと。正直、その後の跡取りについてはもう諦めているみたいだけど。


「そうは言ってもね・・・。その話を聞いた後私もちょっと考えてみたのよ。ここは正直、琵琶湖以外何もない過疎の町でしょう。数年前にはごみ処理場の建設候補地にされたくらい、この先魅力的に発展していく見込みも正直ない。そういう場所に長男として母親を1人置いておくわけにいかないって思ったのかなーって。そう考えれば、お兄さんの言ってることも間違ってはないわよね・・・。今は絢梨がいるからいいかもしれないけど、逆にお母さんの存在によって絢梨が縛られちゃうのもどうかと思うしね」


「え?!私、縛られてるなんて思ったこと、一回も無いよ」


「うん。今はね。でも、この先はどう?絢梨だってもしかしたら、今すぐ結婚したい相手が現れる可能性だってあるのよ。20代なんだから十分ありえる。」


「え・・・。いや・・・」


言葉に詰まっていると、柑奈はいつにもなく真剣な顔で絢梨をのぞき込む。


「もし・・・。福幸堂のことを気にしているなら全く問題ない。お父さんの遺言で、離れのあの土地だけはもう既に絢梨のものだから、ここと一緒に処分する必要は全くない。そこはお兄さんもちゃんと分かってるはずよ。ねえお母さん、今はまだいいの、すぐとは言わない。でも、何年後かの未来のことはちゃんと考えないと。無視してないで」


「・・・お前、そんなことを言いに帰って来たのかい」


「え?いや、それだけじゃないわよ。普通に骨休めに来たんです。でも、ついでに言っておこうかなと思っただけよ。」


「本当に。うちの子どもたちはみんな勝手だね。」


そう言って芽依子は奥の自室に引っ込んでしまった。


「・・・絢梨だって分かるでしょ。私の言いたいこと」


絢梨は静かに頷く。確かに分かっていた。お祖母ちゃんはこれから老いて行って、一人でこの屋敷・・・いや、この何もない田舎の町に一人で住むことは難しいということを。


その後、絢梨と柑奈は他愛もない話で盛り上がり、絢梨は夕方には福幸堂に戻った。

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