第5話 お兄ちゃんはやる気です!

「おにい…ちゃん。」

「エリーナ…ダメだよ…そんな…っ!」


「キモ。」

「はっ!ゆ、夢か…。」


勇者は、デュランダルの一撃で飛び起きると、先程まで見ていた夢を、舐め回すように思い返した。

うむ、あれはいいものだ。だが、危うく一線を越えるところであった。勇者が未成年の妹に手を出すなんて、異世界でも大スキャンダルだ。


「実際にそんな展開になったら、気を付けないとな。」

「なるわけないだろ。」

「エリーナがダメでも、メルティならいいか。」

「私はどうやら、魔王よりも先に貴様の血で刃を染めねばならぬようだ。」


定型文のような会話を繰り返しながら、一行は身支度を済まして旅路を急ぐ。もうすぐ街が見えて来るはずだ。そこで、旅の仲間を見つける算段である。

魔王が大陸を掌握しているとはいえ、その監視の目を全土まで張り巡らせるのは容易ではない。デュランダルの古い記憶を頼りに、点在する街を探す。


「その街は小さいし、天然の茨で守られている。特に占領しても旨味はないし、なにより攻めにくい。魔王がスルーしている可能性は高い。それに、その街には古い友もいる。愛想は悪いが、腕は確かだ。健在であると良いのだが…。」


そうこうするうちに、街が見えてきた。


「街が見えたぞデュランダル!」

「紹介しよう。あれが茨の街、ウラヅチだ!」


茨…?ウラヅチ…?うっ…頭が…。なぜだろう、どこかで聞いたことがある。

しかし、そんなことはどうでもいい。明らかに様子が変だ。


「デュランダル、何かおかしい。人の動きが見えないんだ。これは…。」

「ああ、これは間違いない。魔人の匂いがするぞ。」

「大変だ!住民を助けないと!」


珍しく勇者らしい行動を見せるタクマだが、その実、助け出した街娘とのロマンスに想いを馳せた結果の動きであった。

だが、その下心も方向性は間違っていなかったらしい。茨にチクチク刺されながら、ようやく街へ潜入したその瞬間、悲鳴が聞こえてきた!


「キャー!助けてー!」


テンプレ通りの展開に、思わず胸が高鳴ってしまう。落ち着けタクマ。焦るなタクマ。デュランダルに力を蓄積させろ。


「おい!そっちに力を溜めてどうする!?」


脈打つ鼓動が、備え付けた聖剣の覚醒を予感させる。デュランダルの悲鳴も加わって、あたりは一層騒がしくなった。


「ん!?あれは!?」


街の広場に到着すると、磔にされた1人の美女が、あられもない姿で処刑の瞬間を待っていた。醜い魔人達が集まり、その瞬間を今か今かと待っている。

中には街娘を人質に取り、美女が抵抗して脱走しないように、たしなめている者もいた。


「クックック。死ぬには惜しいものよ。我ら魔人の慰み者にしてやろうか。ハーッハッハッ!」

「くっ!さっさと殺せ!」


状況は最悪だが、このセリフ、どこかで聞いたことがある。そうだ、2ちゃんで見たやつだ!2ちゃん…?うっ…頭が…。

そんな余計なことを考えていると、既に魔人は禍々しい刃の付いた武器を大きく振りかぶり、襲いかかろうとしているではないか!


「デュランダル!!」


解放呪文を予め簡略化できるように、デュランダルと話を付けておいて良かった。

これで、言い間違いやド忘れによる事故を防げる。そしてなにより、かっこいい!


そのキメゼリフを聞くやいなや、聖剣は輝き、魔人のおぞましい武器を受け止める。


「おっと、この美女は殺させないぜ!」

「なに!?どこから現れた貴様!」


「教える義理はないね!食らえ、シャイニングバースト!!」

「グオォ!」


次々と魔人をなぎ倒し、捕まっていた娘を逃す。


「さあ、お逃げなさい街娘!そして、後で宿に来るのです。お礼は体で結構!」


「キャー!助けてー!」


「アバババババババ!」


おいデュランダル、戦いの最中にお仕置きはやめるんだ。


しかしこの魔人達、束になっても、女幹部と比べたらメチャクチャ弱い。あっという間に敵を片付けたタクマは、勇者よろしく、捕われていた美女を優しく抱き抱えてこう囁いた。


「お待たせ。」


朦朧とする意識の中で、美女は答える。


「おにい…ちゃん?」


「はい、お兄ちゃんです。」


「よかった…。」


即答したタクマに安心したのか、美女は意識を失ってしまった。


「さてさて、お楽しみタイムといきますか。」


この男、やろうとしていることは、魔人よりもゲスである。


「キャー!助けてー!」


おいおい街娘、まだそこにいたのか。これではまるで、犯行現場を押さえられた変質者ではないか。


「キモ。」


「アバババ…。」


デュランダルのお仕置きで、変質者も無事に意識を失い、捕らえることに成功した。


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