第166話 4回目の結婚式

 嫌な予感を感じつつも、魔道具や護符を沢山身につけているわけだし、何が起きても大丈夫よね! と心を強く持って、カイル様と一緒に控室から式場へ向かう。


「ソフィア、緊張しているんですか?」


 あまり話さず大人しい私に、カイル様が問いかけてきたわ。


「あっ、はい。身内だけとはいえ、やはり緊張してしまいます」


「そうなんですね、もう慣れてしまったかと思いました」


 確かに4回目なんだから、いい加減慣れろってはなしよね。

 でも何度やっても緊張するのよ! 仕方ないじゃない! っていうか、カイル様の言い方がちょっと引っかかるわね。


「なんだか少し嫌味っぽく聞こえますよ?」


「少し嫌味っぽく言ってみました」


「えっ?」


 カイル様がわざとそんな事を言うなんて珍しいわね。


「冗談ですよ。私だけ緊張するのかと思っていたので、ソフィアも緊張していたのがわかって安心しました」


 カイル様でも緊張するのね。1回目の時も緊張していたのかしら?


 それにしても、最近どんどんカイル様のイメージが変わっている気がするわ。

 真面目で完全無欠なイメージだったのだけれど、冗談も言うし、エドガー様をいじったりもするし、こういう時に緊張もする……人間味がプラスされていっそう魅力的だわ。


「どうしました?」


 カイル様を見つめていたら、視線が気になったのかそう問いかけてきた。


「カイル様に惚れ直してしまって、見惚れていました」


 誤魔化す必要もないので恥ずかしげもなく本当の事を言う。


「可愛いことを言いますね……もしかして、煽ってますか?」


「えっ?」


 目の前はもう式場なのだけれど、カイル様が立ち止まりこちらを見つめる。


「……今日は忍耐力がとても磨かれそうです」


 そう言って笑い、私の手をとってキスをした。


 何の事だかよく分からないけれど、手にキスしている姿も格好良くて胸キュンだわ!




――――――――――




 そして式場へ入場し、身内達に祝われながら、誓いの言葉とキスを交わす。


 両家族に親戚達、エドガー様にノア様、アメリア様とダニエル様、ミアとレオ様、そして宣言通りちゃっかり居る女神アルティア。

 一応気を遣っているのか、アルティアは一番後ろに方に居るわ。


 今回は、本当に身内だけで挙げたので、式の間は柔らかく温かい雰囲気だったし緊張はすぐ解けたわ。ノア様の時は周りの視線が痛かったものね。


 そして、カイル様のけしからん筋肉や、普段見られない表情に、胸キュンし過ぎて呼吸が荒くなり、空から天使が降りてきて召されそうになりつつも、そこは気合で乗り越えたわ! 毎回天に召されそうになっているのは仕方ない事よね。うん。


 それにしても、少し前までは、まさか3人と結婚するなんて思いもよらなかったわ……っていうか、そういえばあのお茶会から、まだ2年も経ってないのよね。なんて濃ゆい日々だったのかしら……。


 はっ!! いけないいけない、締めの言葉に入りそうだったわ!

 式はまだ終わってないんだから集中集中。


「このまま何事も起きずに終わりそうですね」


 誓いのキスが終わってから、挨拶へ周っている途中、カイル様がコソッと小声で囁いた。


 はうっ、突然低音ボイスで耳元で囁かないで! 声の色気で背筋がゾワゾワするわ! っていうか、そんな事を言ったら……。


「ソフィア! 私が来てやったぞ!!」


 アルティアの斜め後方に、突然もやしらしき人影が立ち上がって大声で何か言ったわ。


 ほらっ! カイル様がフラグ立てるから、要らないモノが出てきちゃったじゃないのっ!!


「あっ! こらっおぬしっ! 出てはいかんと言ったじゃろ! ソフィアよ、すまぬ」


 慌ててアルティアが、こちらへ謝りつつ立ち上がり、もやしを隠そうとする。


「アルティア、どうしてジュリアンがここに居るのかしら?」


 いつの間にかノア様が、アルティアの正面に立って問い詰め、エドガー様が、もやしのことを知らない家族や親戚達を素早く誘導し、アルティアともやしから距離を取る。


「うむ、こやつが心を入れ替え、ソフィアを祝いたいと言い出したので、影から見るだけだと念を押し、影の中に入れて連れてきたのじゃが……」


 影の中に入れるってどんな状態なのかしら? 見るだけってことは、影の中に居るのに周りが見えるってことよね。なんかサラッと凄いことしてくるわね。さすが女神だわ。


「どうしたんだ? 私からの祝いの言葉が欲しいかと思って来てやったのだが、ノアやエドガーは何故アルティア様を困らせているんだ?」


 影について考えていたら、突然もやしが意味不明な言葉を発した。

 いやいや、ほんと、何言ってんのよもやし。


「えーと、ジュリアンはアホなのかな?」


 エドガー様が、皆が思ったであろう台詞をそのまま言った。

 ていうか、アホってストレートすぎるわね。


「あほ……?」


 予想外すぎたのか、もやしは言われた言葉を理解できないみたいで呆然と佇んでいる。


「アルティアを困らせてるのはあなたでしょ。影から見なさいって言われてたんじゃないの? 出てきたら駄目でしょ」


 ノア様は子供を諭すみたいな言い方で突っ込んだ。


「いや、ソフィアは私から祝いの言葉を貰えば喜ぶかと……」


「喜ばないわね」

「喜ばないね」

「喜びませんね」


 ノア様、エドガー様、カイル様が同時に返事をした。


「そもそも犯罪者が、何普通にしゃしゃり出てきてんのよ! 見逃してあげようかと思ってたけど、そんなに捕まりたいなら捕まえてあげるわ」


 ノア様が凄んでそう言った。


 そうだったわ、アルティアと話をしてた時はすっかり忘れていたけれど、もやしは犯罪者っていうか逃走犯だったわ!


「うーむ、捕まると面倒じゃからな、ちょっとの間出られない所へ行ってもらおうかのぅ」


 アルティアが呟くと、もやしの周りが光り輝いた。

 その眩しさに思わず目を瞑ってしまい、次に目を開けた時にはもやしの姿が消えていたわ。


「アルティア、ジュリアンを逃がしたの?」


 ノア様がアルティアに詰め寄る。


「すっ、すまんのぅ……ちょっと試したい事があってのぅ。捕まると面倒なのじゃ。それにしても、お主らの前に姿を現さないと約束したのじゃが、忘れとったのか? あやつには困ったものじゃ」


 本当に困った様子でそう返すアルティア。

 まぁ、ここにもやしを連れてきて、何かをするつもりではなかったんだろうし、護符も魔道具も何も反応が無いから、もやしも本当に祝いの言葉を言いに来ただけっぽいわね。


「2度とソフィアの前にアレを出さないでちょうだいね!」


 ノア様、もやしが物みたいな扱いになってるわ。まぁ私も人のことは言えないけれど。


「はい、もう見たくないですね。そして、護符や魔導具の反応は無いので、もやしは本当に祝いの言葉を言いたかっただけのようですね」


 カイル様達に安心してもらおうと、護符や魔道具の状態を説明したわ。


「そうみたいね。例の魔道具にも反応は無かったわ……ほんとお騒がせ野郎ね」


「まぁ何事も無かったんだし良かったよね。とりあえず式を続けようか」


 エドガー様がそう言って、避難させていた人達を席へ戻してくれたわ。


 そして、今度こそ何の邪魔もなく順調に進んでいったわ。途中、カイル様の筋肉と、滅多に見られない笑顔で、またもや召されそうになったけれど、それは更なる気合で乗り切り、退場時には、エドガー様が花びらシャワーをしてくれるというサプライズで締めくくったわ。


 身近な人達皆に祝福されて、とっても幸せで、とっても素敵な、最後を締めくくるに相応しい結婚式だったわ。

 もやしの件は要らなかったけれどそれはそれ。……えっ? どうせ5回目もするんじゃないって? そんな事は無いわよ? 正真正銘、これが最後の結婚式よ!

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