第163話 アルティアとジュリアン

 という事で1人になったもやしを誘導し、もやしが袋小路へ繋がる最後の角を曲がる前に、私とノア様はアルティアの力で姿を消した。


「んっ? ソフィアが居たと思ったのだが……人すら居ないな」


 誘導されたもやしが呟いた。


「お主がジュリアンか」


 そこへ突然アルティアが現れた。

 神々しく見えるよう、神の力で光の効果エフェクトをつけたのよ。


「……!? ソフィア!? ……ではないのか……? 何だこれは?」


 驚いたもやしは、光り輝くアルティアを見ながらそう言った。

 そりゃびっくりするわよね。


「妾は女神アルティアじゃ。お主が妾の使徒になったのでな、わざわざ姿を見に来てやったのじゃよ」


 威厳のある神っぽく、あえて上から発言で説明をするアルティア。


「女神アルティア……だと? いやいやいやいや………………えっ? ……えっ? 本当に女神?」


 もやしは挙動不審になっている。

 後光を発生させ宙に浮き、風もないのに衣服をふわふわさせているアルティアは、どこからどう見ても、普通の人間では無いものね。


「使徒ジュリアンよ、どうしたのじゃ? 妾に会えて嬉しくは無いのかえ?」


 もやしがフリーズしたので、少し困った様子で問いかけるアルティア。


「ほ、本当に……アルティア……様……」


 呆然と佇みながら呟くもやし。

 もっと、『わー』とか『ぎゃー』とか言うのかと思ったのだけれど、案外大人しかったわね。


「うむそうじゃ。ところでジュリアンよ、そなたに問いたいことがあるのじゃが良いか?」


 ジュリアンがフリーズから戻ったので、前もって話し合っていた、予定通りの会話を始めるアルティア。


 えっ? いきなりもやしを見つけて速攻でワープしていたのに、いつ話し合っていたのかって?

 もやしの誘導をする相談をしていた時に、なんにも対策してないのはアレだという事で、その後の事も話し合っていたのよ!


「なっ、何の話でしょうか……」


 もやしの話し方が丁寧になったわ。


「そなた、随分ソフィアに入れ込んでいるそうじゃな」


「な、なぜ女神が、ソフィアの事など気にするのですか?」


 むっ、もやしめ! ソフィアの事って言ったわね! もやしなんかにそう言われると腹が立つわね。

 とかいいつつ、このまま執着が無くなってくれれば会うこともないし、もやしから何を言われようが、どうでも良いのだけれど。


「あやつは聖女でも何でもないのでな、勝手にそういう存在だと言われるのは、この世界と妾にとって害しか無いのじゃよ」


「なっ、何故その事を知っているのですか?!」


 私を聖女にしたてあげる件を、何故アルティアが知ってるのかって? そりゃ私が話したからよ! とは言えないので、それを聞かれた時に返事する内容も考えておいたわ。


「妾は女神ぞ。この世界のでき事は、ほぼ把握しておるわ」


 おおーっ! ちゃんと神っぽい言い方になってるわね! って、まぁ、本当に神様なんだけれど。

 とりあえず、アルティアが威厳を出そうと頑張っているわ。


「あれなら大丈夫そうね」


 いつの間にか後ろに居たノア様が、突然私の耳元で囁いた。


 うひゃっ、突然耳元で囁かないで! びっくりしたじゃないっ!


「あら、ごめんなさい。驚いちゃった?」


「あ、はい。アルティアの会話に集中してたので驚きました」


「ふふっ、ビクッとしちゃって可愛かったわ」


 そう言いながら、後ろからぎゅっと抱きしめてくるノア様。


 いや、ノア様、大胸筋の感触は嬉しいけれど、こんな時にいちゃいちゃしている場合では無いと思うわ……。


「あの様子ならもう大丈夫よね。せっかく周りから見えてないんだから、外でいちゃいちゃするのも新鮮で良いじゃない?」


 周りからは私達の姿は見えないけれど、女神の力により、私はノア様を、ノア様は私を認識できるようにしている。

 なので、周りから見えてない状態が、いつまで続いているのか分からないし……見えてなくても外でなんて無理よっ!!


「えっと、流石にここでは……無理ですね」


「あら、そうなの? 残念だわ」


 本当に、残念そうにノア様がそう言った。


 うぅっ、断ったせいで、ノア様に悲しそうな顔をされてしまった。罪悪感が半端ない……。


 きっ、筋肉を触るだけだったらいちゃいちゃしても……って、絶対それだけでは終わらないわよね!!


 俯いて悶々としていたら、いつの間にか前に立っていたノア様に、顎をクイッと上げられた。


「そんな顔しないで頂戴。困らせたかったわけじゃないのよ」


 優しくそう言ったノア様が、そのまま自然に口づけを…………って、いちゃいちゃしないって言ったわよねっ!


「んむっ……」


 心の中では突っ込んだものの、ノア様の優しい口づけは拒めない。

 結局そのまま、建物の陰でいちゃいちゃ……って、もうっ! ほんとに流されすぎよ私っ!


 えっ? 結局Hしたのって? いやいや、流石にこんな所でHはしないわよ!

 筋肉をさわったり、身体を触られたり、キスをしたり……そう、軽いスキンシップをしただけよ!


 という事で、ノア様といちゃついていたら、アルティアともやしの話が終わっていたわ。


 なんかごめんなさい。


 そして、アルティアが帰る合図をしてきたので、慌ててノア様と一緒にアルティアの側へ行き、そのまま3人でお城へワープして戻ったわ。


 あっそうそう、説明はしていなかったけれど、アルティアは女神だから、魔道具無しでも神の力で色々できるのよ。ワープとか先程の効果エフェクトとかね。




―――――――――




「いつの間にかお主らが妾から目を離しておったので、どうしたのかと思ったら、いちゃついていただけだったのじゃな」


 はい、そうです。すみません。


「アルティアが、ちゃんと作戦通りにしていたから見守らなくても大丈夫だと思ったのよ。それに、せっかく姿が見えない状態でソフィアと2人っきりだったから、ついつい可愛いソフィアをでてしまったのよ」


 ノア様ってば、悪びれずそのまま説明したわね。


「うむ、夫婦が仲良くするのは良い事じゃ」


 ……怒らないのね。


「ところで、ジュリアンはどんな様子だったのかしら? 途中から全く見てなかったから、結果を教えてもらいたいんだけど」


 ノア様、全く見てなかったって……それはさすがに、怒られそうな発言なのだけれど。


「うむ。あやつは妾の事を女神として認識したうえで、妾の害にはなりとうないからソフィアには近づかぬと宣言したわ」


 おおーっ! そうなのね! 素晴らしい結果だわ!

 ……ていうか、ノア様の失礼な発言にも全然怒らないのね。


「あら、それは良かったわ。流石女神アルティアね! あっ、そういえばジュリアンは使徒としてアルティアの役に立ちそうだったの?」


 そういえば、アルティアは元々それが目的でここへ来たと言っていたわよね。


「うむ、会ってみても活用方法がイマイチわからなかったのじゃ。少しでも神の力が宿っておればと思ったのじゃが……妾の使徒になっていたとはいえ、ただの人間じゃったのじゃよ」


 まぁ、もやしが役に立つ事なんて、全く無さそうだものね。(偏見)


「そうなのね。それでも使徒としてそのまま放置しておくのかしら?」


 そうそう、そこが気になるわ。

 一応、私には近づかないと言ったからもう関係は無くなりそうだけれど、アルティアはもやしをどうするのか知りたいわね。


「このまま放置しておれば、何か変化があるかもしれぬから、観察するつもりじゃ」


 もやしの観察日記的な。


「あら、そうなの? まぁ、金輪際ソフィアにちょっかいを出さないって事なら、別にあいつがどうなろうがどうでもいいわ」


 まぁ、こちらに被害がでなければ、もやしなんてどうなっても構わないものね。

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