第31話 ◎動揺?心配?
※カイル視点のお話です。
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目の前で、手を繋いでいたはずのソフィア嬢が、ドアを開けた瞬間、煙のように消えてしまった。
その時、一瞬だけ煙の向こうに見えたのは、エブラータ王国の装飾……見覚えのある、ごてごてした装飾だったから王城か?
そして、ソフィア嬢がドアを開けたはずなのに目の前のドアは閉まっていた。
とりあえず、ドアを開けるとエドガー王子達が不思議そうにこちらを見た。
ソフィア嬢がドアを開けるはずだったのに、開けたのが私だからだろう。
「カイル、ソフィアはどうしたのだ?」
「ドアを開けた瞬間に消えました」
「そうか、やはり移動したのか……誰か執務―――」
「多分、執務室ではありません」
「え? 執務室ではない??」
エドガー王子が執務室へ確認を出そうとしたので、先ほど見えたエブラータ王国の装飾の話をする。
それでも念の為、執務室の確認をしたが、やはりソフィア嬢は居なかった。
「エブラータ王国?! 何故その国にソフィアが飛ばされたのだ?! まさか、反国王派と何か関係してるのか?!」
「わかりません。一瞬でしたが装飾が王城内のように見えました……とりあえず反国王派と関係があろうがなかろうが、エブラータ王国へ通信魔道具で連絡を取ったほうが良いと思われます」
その後ドアを調べてみたが、魔道具も何も見当たらなかった。
とりあえず、何故とかどうやってとかはどうでもいい、もし反国王派と関係していたら危険だ、ソフィア嬢が無事なのか、それだけがわかれば………ん? 私はソフィア嬢を心配しているのか?
エドガー王子の護衛である、第一騎士団の団長になり、この1年はエドガー王子を最優先にしてきた。
冷たいようだが、エドガー王子が無事だったらそれ以外の人はどうでもいい。勿論余裕があれば手を広げるが……。
その私が、ソフィア嬢の無事を心配している? まぁ出会ってから、王子の相手として考え、色々危なっかしいから心配して来たが、この焦燥感は一体………。
「とりあえず、エブラータ王国へ連絡は入れたが、距離的に1日はかかる……ソフィアのことは心配だがどうしようもない」
エドガー王子がとても冷静にそう言った。
私でもこれだけ焦燥感があるんだ、表面上では冷静でも王子の心の中は凄いことになっていそうだな……大丈夫だろうか?
そしてミア殿も、顔を真っ青にして立ち竦んでいる。
しかし、この状況をどうすることもできず、連絡を待つことしかできない私達は、普段通りに1日を過ごすしかなかった。
といっても、皆普段通りにはならず、いつもはミスのないエドガー王子が、書類ミスをしまくり、使い物にならないと側近達に言われ、今日は仕事を休んだ。
ミア殿は部屋の掃除で物を壊してしまってから姿が見えない、私も何故か調子が出ず、訓練にも集中できずで珍しく周りに心配された…。
私もそんなにひどい状態なのか??
就寝時間になり寝ようとするが、ソフィア嬢が消えた瞬間のことが頭から離れず、なかなか寝付けない。
あの柔らかい手を繋いでいたのに……煙のように消えてしまった。
己が不甲斐ない……魔道具の存在をもっと気にしていれば、手を繋ぐだけではなく、もっと何かできたのではないのか? と、自分らしくない後悔をしてしまう。
……いかん、なんだか調子が狂うな。
そして次の日の朝、エブラータ王国の第2王子からエドガー王子宛に音声での通信が来た。
『エドガー王子! 先月ぶり〜ノアよ。先月私がうっかりそちらに置いたまま忘れてた、魔道具の暴走のせいで、昨日そちらのソフィア・ジョーンズという令嬢が、こちらに来ちゃったの。どう考えても私のせいだし、そちらへ返すのに例の物を使うつもりだから、3ヶ月はこちらで面倒を見ることにしたわ。心配しなくても、とっても気に入っちゃったから仲良くするつもりよ♪ じゃぁまた、何かあれば通信魔道具で連絡するわね〜! あ、そうだったわ、王様にもよろしく言っておいて〜』
「げ、よりにもよってノア王子……」
「殿下、言葉遣いが……。しかし、ノア王子だとしたら、反国王派とは関係なさそうで良かったです」
エブラータ王国のノア王子は変わった方で、立派な体格を持つ男性なのに女性の様な格好をしている。
しかもエドガー王子を気に入っているのか、やたら馴れ馴れしく話しかけ、ボディタッチをしてきたりするので、エドガー王子が苦手な人物なのだ。
だが、我が国とは仲良くしていきたいと、率先して行動している人物でもあるので信頼している。
「そして、気に入ったとおっしゃっているので、危険はなさそうですね」
そのノア王子の言葉だから、心配していた気持ちが少しだけ軽くなった。
「違う危険がありそうでやだなぁ。あれでもノア王子は男だよ」
「あぁ、しかしあの格好をしているということは、そういうことではないのでしょうか?」
「うーん、かもしれないけど、どっちもいける人も居るんだよ。3ヶ月……はぁ、ソフィアは押しに弱そうだから心配だな」
確かに、ソフィア嬢は見た目と違いほわほわしてて、押しに弱そうというか、いつの間にか食べられそうなイメージだな。
うーん、危険……か? ……ふと、ソフィア嬢が赤面して潤んだ瞳でこちらを見上げた表情を思い出した。うん、危険だな。
「では、私が迎えに行きましょうか? そうすれば1ヶ月程で戻ってこれます」
「えっ? カイルが??」
よほど意外だったのか、驚いた表情でこちらを見るエドガー王子。
「私1人だったらすぐに向かえますし、誰よりも早く辿り着けると自負しております」
「いや、それはわかってるんだけど、カイルって私以外の事であんまり動かないイメージがあったから、ちょっとビックリした」
「ソフィア嬢は、殿下のお相手です」
「うん、そのつもりだけど、まだそうではないしね。それでも意外。あっでも、確かに行きは1人の方が良さそうだけど、帰りはどうするの? ソフィアを連れて山を越えられるの?」
そうだ、女性は風呂や寝る場所とかが大変だな。流石に2人で山越えはできないか……。
しかし、こちらから人を連れていくと時間が……。
「帰りが厳しければ、向こうに着いてから私がソフィア嬢の護衛をしましょうか? そうすれば殿下も安心では?」
「あっ! それいいアイディアかも! カイルが居ればノア王子はソフィアに手を出そうと思っても出しにくいよね? あと、ノア王子はカイル自身には興味無さそうだし、カイルに危険もない。よし、その方向で連絡しよう! 返事を待つのに2日あるし、その間に出発の準備しといて! さて、却下されない様にそれらしい理由をつけないとね」
エドガー王子はそう言って、引き出しから紙を取りだし書きだした。
そんな中、早く迎えに行きたいという焦燥感が消えない……何故だ?
エドガー王子に頼まれていたのに、ソフィア嬢が目の前で消えたことによる動揺か??
よくわからない気持ちのまま、山越えの準備と自分が3か月程抜ける為、騎士団長と騎士団員へ業務連絡をした。
レオはいつもの調子で、おっけ〜と軽く返事をしていたが、ソフィア嬢が隣国へ行ってしまったことに対してちょっと心配そうだった。
オリバーには、こんな時期にエドガー王子の元から離れるとは何事だ!? と言われたが、王子の事はそのオリバーにまかせ、(オリバーの方が私より強いし、第一騎士団の副団長もそっちのほうが安心だと言ったので)2日後にすぐ許可が出たのでエブラータ王国へと出発して、予定通り10日ほどでエブラータ王国へたどり着いた。
国境で身分証を提示して、王城へ連絡をしてもらう。多分夕方には着くだろう。
やっとソフィア嬢に会えることに安堵する。
……安堵……なのか? この10日、魔物を討伐しながら森を抜け、山を越えている間もソフィア嬢のことが気になっていた。
エドガー王子の結婚相手ということで、守らなければと思い行動してきたが、今は何だかおかしい。
得体のしれない何かがもやもやと、ずっと心の中に居て消化不良な気分だ。
うーん、こんなことは初めてだ、ソフィア嬢の無事な姿を見ればスッキリするのか? ただの心配なのだろうか??
もやもやした気持ちのまま街道を進み、予定通り夕方には王城へ着いた。
「カイル様お待ちしておりました! ノア殿下より、すぐこちらへ通すように、とのことですので、こちらへお願い致します!」
慌ただしい様子でノア王子の側近が私を案内してくれた。
ノア王子の私室か? 何故謁見の間ではなくいきなりこちらへ通されたのだろう?
不思議に思いながらも部屋へ入ると寝室へ案内された………なぜ寝室??
「カイル!! やっと来てくれたわね!! 間に合わないかと思ったわ!!!」
「ノア殿下、一体何が?」
「……んんっ、……はぁっ……かいる……さま?」
ノア王子の心からの歓喜の言葉と、弱々しいソフィア嬢の声が………。
「……っ!? これ……は……?」
ベッドには衣服が乱れて、艶っぽく悶えるソフィア嬢が……。
えっ? ノア王子と何をやっていたんだ?? 思わず思考が停止する。
「ほんとに間に合って良かったわ……。このままだとソフィアがおかしくなっちゃうとこだったの。うちのバカ兄に、いかないと効果が抜けない媚薬を飲まされてしまったのよ……。と、いうことで、後はよろしくね!! 私は兄にもう一度お灸をすえてやるわ!」
と言って素早く寝室から出ていった。
えっ?? いかないと効果が抜けない媚薬?? 後は任せた? ……って……ええっ???
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