束の間の日常
それから1週間後。
「完全復活!」
たっぷり休んだ私は、今度こそ本調子! と救護室から脱走しようとしていた。
「そっちに行きましたよ、ユーリ!」
「げっ、ユーリ……」
しかし、リリアナとユーリが無駄に息の合った動きを見せる。
「人の顔を見てげっとか言わないで下さい。普通に落ち込みますから――」
「わー、ごめんなさい!? だから泣かないで下さい」
「よし確保! アリシア様、大人しくベッドに戻って下さい!」
「しまっ――」
わずか10秒で捕縛。
結局、私は魔道具作りに戻るのだった(こっそり!)
ちなみに、馬鹿騒ぎをしている私たちが咎められないのは、救護室内の重傷者に、片っ端から回復魔法をかけて回ったからだったりする。
ミスト砦の奇跡の再来!? っと随分と騒がれてしまったがご愛嬌。
見舞いと称して、アルベルトとこの3人は、毎日のように現れた。
戦況が落ち着いているということで、喜ばしい事ではあるけれど……、相変わらず過保護すぎる!
「何をしているのやら」
「あら、あなたも来てたのね……」
そんな中、呆れ声で顔を覗かせたのはフローラ。
生憎、シュテイン王子への復讐計画が進んでいるのかは分からないが、とりあえず特務隊では、今まで通り魔族相手に訓練係を継続しているらしい。
なんか決闘の日以来、何故かお見舞いと称して顔を覗かせるようになっていた。
こいつは、私の体なんてなんとも思っていないはず!
「フローラ、あなたからも言ってやって。皆さん、過保護すぎるって――」
「う~ん……」
フローラは、なにやら思案顔だったが、
「う~ん? まだ毒が抜けきってないのか顔色が悪く見えますね~? もうちょっと、休んでいたらどうかしら~?」
何やら面白いものを見つけた、とばかりの顔で、にやあと笑う。
「約束どおり、ちゃんと1週間休みましたよ!」
「アリシア様、夜なべして魔道具作ったり、室内の怪我人に片っ端から辻ヒールかける行為は、休憩とは言いません……」
呆れたような声でごもっともな正論を返してくるリリアナに、
「それに昨日の夜なんて、真夜中まで新たな解毒ポーションの調合を試そうとしてたわよ。むかつくぐらい良い腕前だったわね……」
「アリシア様、そんなことまでしてたんですか!?」
フローラが、余計な告げ口をする。
むむむ。このままでは埒が明かない。寝るしかやることがない生活って、本当に暇で暇で仕方がないのだ。落ち着かないのだ。
「分かりました。分かりました――もう黙って夜中に起き出しませんから。だから訓練は……、ね?」
「はあ、約束ですよ――」
私は、どうにかリリアナを説得して特務隊の訓練に戻る許可をもらうのだった。
***
「「「おかえりなさい、アリシア様!!」」」
久々に訓練スペースに顔を出した私を、12小隊の面々が出迎える。
あの戦場で命を落とした者も居る。
顔ぶれが減っているのを見て、少しだけ辛い気持ちになったが、決してそれは顔に出してはいけない。
「アリシア様のおかげで、どうにか無事に帰ってこれました!」
「あの結界が起動したとき、もう駄目だと思いました。自らの命を賭した決死の結界破りで、どうにか助かったんです!」
「でも……、アリシア様。どうか命は大事にして下さいね!?」
久々に顔を見せると、口々にそんな言葉をかけられた。
「私は、たいしたことは出来ませんでしたが……。ここに居る皆さんだけでも無事で良かったです」
あの日の戦いは、決してベストの結果ではなかったと思う。
それこそ王国だったら、兵を死なせたと懲罰ものだっただろう。だけども魔族たちは、特務隊のみんなは、あの日に起きたことを真っ直ぐ受け止め、それでいて私の行動を認めてくれているのだ。
功には報酬を。謝意を。
当たり前のことが、きちんと浸透している。
その事実は、不思議と私の心を軽くした。
「聖アリシア隊は、決して死を恐れません!」
「アリシア様のために死ねるなら本望!」
「アリシア様の崇高な目的を成し遂げるため、この命ある限り戦いましょう……!」
ひえっ、忠誠心高まりすぎてて怖いんですが!?
「主(あるじ)! 心配したのじゃ。無事で本当に良かったのじゃ!」
「心配かけて、ごめん。ライラ」
引き気味の私の元に、腰から刀を下げた狐耳少女が駆け寄ってきた。久々に私に会えたのが嬉しいとかばりに、その耳はぴょこんと立っている。
こう見えてディートリンデ、ブリリアントの戦い、味方の被害を最小限に食い止めたというできるリーダーなのである。
「我々が生み出した新たな連携技、日々の訓練の成果を見て欲しいのじゃ!」
訓練の成果。
そんなことを言われれば、興味深く見るしかないではないか。
「いつものを頼むのじゃ!」
その対戦相手の指名は、フローラ。
相変わらず引きつった顔で、気の所為でなければ少しだけ充足感のある表情で。
「今日もボコボコにされたいのね」
なんて煽る。煽る。
数秒後には涙目で逃げ回ってるのに。
「まさか、降りるのが嫌だと言われるとはね――」
あの手この手で、殺意の籠もった魔族たちからの攻撃を、どうにか受け流しているフローラ。私なら、あんな環境で働けと言われたら、流石に嫌だけど……まあ、本人が楽しんでいるのなら、それでも良いのかもしれない。
魔族たちの攻撃は――それはもうライラが宣言した通り、器用になっていた。近距離での足止め、遠距離からの砲撃、すかさず支援を行う遊撃隊。嫌がらせの極地、みたいなフローラの動きに対応するため、彼らの陣形も独特な変化を遂げていったようだ。
「僕はやっぱり、不愉快ですけどね」
「まあまあ」
口をへの字に曲げるユーリを宥めておく。
ユーリは外から戦いを観察し、魔族たちの動きを分析しているそうだ。それを伝えることで、また新たな弱点を見つけ出し、新たな訓練に取り組むのだそう。
「アリシア様。久々に組み手、やりますか」
「ふふっ、お手柔らかに。精神攻撃は無しですよ?」
そうして私は、リリアナと向き合い訓練を始めるのだった。
――そこに魔王の姿はなく。
アリシアの知らぬ場所で、次なる陰謀が密かに動き始めていたのだった。
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