センダン(中編)

 太陽が上がってくると、とたんに暖かくなってくる。

 良く晴れた日はうっかり厚着をすると汗をかく羽目になるくらい温度差も激しい。

 日本というのは、四季の豊かな国だ。


「オレは新たな技(スキル)を手に入れたんです。それを試す絶好の機会です」


 もう少し時間が進んでうららかになったら、一木が何かおかしなことを言っているのをスルーできたろうか。しかし今はそんな余力はない。つっこむしかない。


「技ってお前……ここはファンタジーじゃないの! 模擬刀持って警官コスプレしてるだけのお前は異能もスキルも何もないの!」

「だから手に入れたんですよ。さぁ覚悟してくださいシャンティスさん」


 バカなの? 特殊部隊は神魔特化のプロフェッショナルだぞ?

 繰り出された言葉に、つっこむどころかあきれ果てる心地のオレの横で、浅井も落ち着いた。クールダウンした、という方が正しいだろうか。

 一木を見る、目がシベリアだ。


「あっ! なんですかその顔。喰らうがいいです。我が『千弾光』を!」


 腰を低く落として何やら構えの姿勢を取っている一木。遊びにしても本気っぽいのが何とも言えない。対して浅井さんは相手をする気も失せた模様。


「中二ごっこは身内でしてくれない? 恥ずかしいから」

「千弾光って何、一木くん」


 忍が思わず聞いているが今は公園の出口を挟んでタイマンなのでおかまいなしだ。


「そんな余裕かましてると本当に痛い目会いますよ。なぜならこれは忍さん直伝なのだから!」

「!」


 それを聞いた浅井さんの顔から、呆れの色が消えた。とって代わって警戒の色が走る。

 突っ立っていた無防備な状態から無意識か軸足が一歩引かれている。


「すみません、浅井さん。なんで私直伝とか言われてそんなに警戒してるんですか。私、浅井さんに何かしたことありますか?」

「えっ? あ、ないけど。ごめん。でも……」

「オレはされました! 大変なことになりました! 全身を針に穿たれたがごとく……そして30分近く足止めをされ!」

「忍、お前そんな人外の力もってたの? いつから?」

「持ってないよ。でも大体わかった。続けてください」


 続けろとか。

 えー、となっている浅井さんとオレを前に、忍は黙して傍観者モードになってしまった。


「く、もし忍さんにそういうことが出来たとしてもこいつにそんなことできるわけがない」

「浅井さん、私にもできるわけがないです。そういうのやりたかったら異世界行ってください」

「一緒にしないでくれる? 異世界行きはこいつだけで十分……」

「スキあり! 千・弾・光ぉぉぉぉーー!!」

「!」


 そしてその技は放たれた。

 勢いよく突き出される一木の右手。そしてその先は浅井さんの上腹部に向けて。


「……………………」


 ぴと。

 何ともいえないミニマズムな効果音が聞こえた気がした。

 実際、効果音も何もない状態だが。


「何? これ」

「え、あれ? ……つかない。なんで!!?」


 それは枯れた植物だった。花火がはじけた瞬間のようなトゲトゲした模様を全方位に広げた花?だろうか。


 浅井さんはぺいっと無情にそれを払ってすぐ目の前、低い位置にある一木の頭に片手でチョップをくらわせる。普段、暴挙とは縁遠いその姿からは斬新なリアクションだ。


「痛ってぇ!!!」


 浅井は浅井さんの足元に両手で頭を抱えてしゃがみこんだ。


「大丈夫か!」

「衛生兵!」


 中二病の同僚たちが本気か冗談かわからない口調で駆け寄ってきた。


「やっぱりか~ 特殊部隊の人の制服って、生地がしっかりしてるし絶対つかないなって思ってたんだ」

「忍さん……どういうことですか」


 その説明はオレも求めたい。この目の前でもだえ苦しんでいるアホはともかく、意味が全く分からない。


「これ」


 そう言って忍は一木が落とした植物を拾い上げた。


「センダン、っていうの。あちこちにある雑草」


 周りを見た。うん、花壇とか道端とかになんとなく生えまくっている。街中では見ないけど。


「黄色い花が可愛いっていう人もいるんだけどね?」


 そして忍は枝を短く折ると浅井さんの左の二の腕に位置する、護所局の徽章にそれをつけた。

 ぷらーん。

 なんかさっきと違って、くっついている。

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