6.もうすぐカウントダウンです

「えーこんな時に何か事件?」

「全く無粋な奴がいるもんだ」


いや、それを警戒しての本部なんですが。

続いて無線が入ってきた。


『2036地区にて、爆発事故が発生した模様です。至急確認に向かいます』

「おぅ。確認してただの爆竹だったら、報告はいらねーぞ」


それ、隣の国の正月。

しかもまだ日付変わってないからフライングですよ和さん。


「? 地区名、今ので場所分かるんですか?」

「傍受されていると大変なこともあるから、番号を使うこともあるんだ」

「あ、なるほど」

「で、2036地区ってどこ?」

「……聞いてもしょうがないだろう? 大人しく……」


と、興味を示した森さんと忍に返しかけて、言葉を止める司さん。

さすがにアラームが尋常じゃなかったので、条件反射のように一部を除いて、コートを羽織って迅速に身支度を整えている。

しかし、


襟元を締め直しかけた司さん、そのまま沈黙ーーーーー


「司ー?」

「そこ、ダンタリオン公爵の」

「浅井、情報の開示は内規違反だぞ」


ていうか今、ダンタリオンのとこって言いかけたよね?

司さんが黙った理由わかったよ。あいつのとこだってわかったからか。


何やらかしてんだ、あいつはぁぁぁぁ


「……あ、公爵ですか。何か爆発あったみたいですけどどうしました?」

「待て。忍。直接連絡するな」


すかさず直に確認を取っている忍。

向こうの声は聞こえないが……


「局長に代わってくれだそうです」


そんなわけでわずかな会話の後に、和さんに通話権が渡った。


「うん? あぁ、うん。うん、わかった。そういうことなら」

「?」


全然話が見えずに、首をひねるオレたち。

ただ、会話から察するに、ものすごい事件が起きたわけではないっぽい。


「年末観光神魔が酔っぱらって暴れてるらしい。司、お前行けや」

「……わかりました」


ものすごい事件起こってたーーーーー……


「バックアップは誰が付きますか!?」

「いや、公爵んとこだし、一人でいいだろ。おぢさんは静かにゆく年くる年見たいんだよぉ」


ゆく年くる年主張されると地味に腹立つんだな。オレ、今度から気を付けよう。


「どーせ、神魔の方は公爵が抑えるだろうし、そいつ引っ張って処理。あと現場検証頼むわ」

「局長、横暴!」

「一番働いている司さんをこき使うとは……」


さすが護所局の大魔王。

仕事モードに切り替わっているのか、一部の隊員たちから同情の声が上がっている。


「いい。他に何かないとは限らないし、せっかく温かい夜食があるんだから、休んでてくれ」

「司さん……!」


こういうところが、部下という名の同僚に好かれるところなんだよな。

率先して、損な役回りは買うタイプではないが、受けたからには回そうとはしない。


「そして夜食を食い終わって鍋が空になったら、熱湯にしてそこでごろ寝してる御岳にかけろ」

「わかりました」


絞めるべきところは絞めるのも、真面目に働いている人間がバカを見ないのでいい。


「ってかなんでオレに熱湯だよ! 肉汁まみれになるだろうが!」

「わからないなら、給湯室の引き出しに七味と胡椒があるからそれもすべて追加して浴びせろ。空になった分はあとで俺が買い足しておく」


なんという悠長な会話……!

ていうか、買い足すとかマメだな、司さん。


「七味って被ったことないけど、粘膜につくと痛いんだっけ?」

「どうかな。私も胡椒かぶったことないからわからない」


普通はないよ。女子二人。


「気になるならその役は渡すから、責任持ってやってくれ」

「気になるけど、公爵の方も気になるから一緒に行く」

「マジで!?」

「何でいやそうなの? 秋葉くん」


そりゃそんな事件起こってるところ行きたくないよ。よりにもよってダンタリオンのところとか、メンドクサイだけだよ。

踏ん縛って引っ張ってくるのだって、あいつ一人でできるだろ。


……しかし、外交上、あいつは仮にも魔界の大使であり貴族でもあるので大っぴらには提案できない。


「私、司が行くなら一緒に行ってみたいんですけど、和さん、いいですか?」

「!」

「行くのは自由意志だからなぁ。でもどうせ一緒なら緊急車両で行くのはおぢさん許可しちゃうよぉ?」

「局長!」


緊急とはいえ、内容的に緊急じゃないせいか、和さんの判断はこんな時ばかり柔軟だ。


「じゃあ行きたくなさそうな秋葉はここで留守番ね。和さんの相手よろしく」

「嫌だ! オレも行く!」

「嫌ってどういう意味かなぁ、秋葉ぁ」


大魔王より公爵の方がマシだろ!

ってか、部外者一人残されるのが無理だろ!


そんなわけで、即決でオレは手のひらを返した。


「……どういうつもりで森まで着いてくるんだ……」

「鍋もさりげに流れていた紅白も、もうすぐ終わりそうだったし、和さんの言うように危険性はないと思って」

「今年の年越しは賑やかだね」


賑やかどころの騒ぎじゃないんだが。


「去年は何も事件なかったんだよ」

「そうなんだ」


去年はオレはこっちにはいなかったので、教えてくれた。

神魔のヒトたちの方が純粋にマナーがいいので、こういうことはなかったらしい。

そうだよな。飲みすぎて暴れる、とかよっぽどだよな。


……むしろダンタリオンがその立場じゃなくてよかったわ。

さすがにそっちに回られると収拾がつかなそうだし。


「司さん、護送用の車両手配はどうしますか?」

「相手の大きさが分からない。とりあえず、処理は公爵に確認してから本部へ連絡する」

「わかりました」


運転をしていた一般警察の黒服の人はオレたちが降りると車を回すと去っていく。

オレたちは勝手知ったる大使館へ。


「……?」


オレも司さんもすぐに気が付いた。


「……爆発はどこで起こったんだ?」

「裏の方ですかね?」


表から見てもどこにも損害はないようだった。

ただし、大使館の建物も敷地も広いので、暴れた場所によっては見えないだけだろう。


騒ぎは収まっているようなので、早足に正面のアプローチから入る。


「お、来たな。司妹」

「こんばんは、公爵」


は?


何事もないように挨拶をする森さんとダンタリオン。そして忍。

いや、もうダンタリオンがなんとかしてるならこんなものだろう。

現場検証だけって言ってたんだっけ。


「……公爵、被害状況は」

「むこうの部屋」


そして、何事もないままあとについて二階に上がる。

広い廊下に並ぶ一室、そのドアを開けるダンタリオン。



ゴーン……


除夜の鐘の音が響いていた。

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