クリスマスの消えた世界で

復活!NIPPON クリスマス!(前編)

三年前……天使が襲来し、訳も分からぬまま人間の国は滅ぼされていった。

神魔と共生することで日常を取り戻した日本でも、当然に天使の宗教にルーツを持つクリスマスは忌むべきものとなり、12月24日。今まで散々街を彩っていたイリュミネーションは消えた。


それが一年目の冬。


二年目、イリュミネーションは復活した。なぜって宗教関係ない冬の風物詩だったからだ。街は神魔のみなさまのおかげですっかり元通り。破壊の痕跡もなく、クリスマスこそないものの、久々の賑わいに湧いた。



三年目。



クリスマスが復活した。



「日本人は節操ないな。知ってたけど」

「その節操のなさが私は結構好きです」

「まぁそんなだからボクたち神魔も入り混じってこの国になだれ込んできているわけだしね」


魔界の大使ことダンタリオンが大使館から見える少し遠めのイリュミネーションに、珍しく呆れたように息をつく。

何事もないように返したのは忍、その後が観光滞在のアスタロトさんだ。


クリスマスは神の子の誕生を祝う日。



ではなくて古代ローマ、ミトラス教の「太陽が生まれる日」つまり冬至のお祭りであったという更なるルーツを知った日本人は速攻、理由をすり替えてクリスマスを復活させた。


街がイベントでにぎわえば経済も回る。

回してほしい企業各社は、煽りに煽り立て、今年のクリスマスのポスターにはインドの太陽の神様「ミトラ神」が起用されている。


「冬に太陽の神様のポスターとか……配色どうすんだと思ったけど、意外と違和感ないのな」


在日魔界の大使館にも広報用のいろいろなものが届けられていて、オレの視界には期間限定で貼られたそのポスターが入っている。


「雪をまき散らして遊ぶミトラ様の、カミサマなのに無邪気っぽい感じが賑やかそうでいい」

「イベントっぽいよな」

「ボクは隣の降ってくる雪を灯に変えている演出の方が好きだな。静かな感じで」

「そっちは大人向けって感じですね」


これがおおまかな講評。太陽の神様だけあってオレンジとか朱色が本人のカラーなのだが、前者は本当に楽しそうで、むしろ楽しそうって言うか雪で遊ぶの初めてで楽しいんだよね、みたいな空気がビシバシ伝わってくるのがまたいいんだろう。


アスタロトさんと司さんが見ているのは打って変わって、密やかな雪と闇の中に静かに灯る炎、そして主張しない美しい高層ビル群が背景で静けさを伝えていた。


「経済業界の団体がすごく頑張ったんだなというのも伝わってくる」

「神魔をプロモに使うと、一発でイメージチェンジができるからな。日本人のクリスマスに対する認識は古代ローマ時代まで巻き戻っている」


理由はどうでもいいのである。口実さえあればイベント化するのが日本人。にほんじんというより「にっぽんじん」と読みたいところ。


「でもイヴだった今日はノーイベントなんだよな?」

「イヴは『あの宗教』由来の独自のカウントの仕方だからな。日没からが一日だから、つまりイヴは『前夜』ではなく本来はクリスマスの『夜』という意味」


さすがに宗教名は口にすらしない。暗黙の了解でもう通じるのだが、クリスマスといえばイヴの方が盛り上がっていた日本人にはちょっと意外な真実でもある。


「実質12月25日がミトラ神の祭日だけど、いきなり2日体制でイベント復活させるのも何だからちょうどいいんじゃないかい?」

「確かに。ていうかミトラス教は古代ローマって言った? なんでインドのミトラ様とか起用されてんの? マスコミお得意の言葉のマジック?」

「自分で調べろ。宗教は土地を変えて伝承されると少しずつ変わるだろ。ミトラス教の元が更に東方のインドにあったってことだよ」


宗教のルーツをたどるのは難しい。同じ方向に伝播されているとは限らないしそもそも元がどこかなんて現代人には知る由もないほど昔の出来事だ。


「調べろと言いつつ、披露しちゃうあたりが君らしいよね」

「わかる。親切心じゃなくて知ってるから自動口述、みたいな感覚なの」


アスタロトさんと忍の見解からさすが知識の悪魔だと、何か違う意味で感心した。


「そんなことどうだっていいだろ。以前までのクリスマスの祝い方はともかく、今回のカオス感はオレは嫌いじゃないな」

「インドの神様ってけっこう来てるけど、ミトラ様は初めてなのによくいきなりポスターとか協力してくれたよな」

「自分の祭りが復活したと考えると、ミトラ神にとっても悪くない話しなんじゃないのか?」


司さんの意見に、ものすごく納得してしまう。神様方は信仰があってなんぼなので、やはり忘れ去られていた自分のお祭りを盛大に祝ってもらったら嬉しいものなのだろう。


こんな時、人と神魔は繋がってるんだなとちょっと実感する。


人間は祭りをして感謝をしたり楽しんで、感謝をされる神様も喜んで。


いい関係だと思う。


「ミトラス教はやっぱり古代ローマで消滅ですか」

「イベントごと吸収合併されたからな。前に神話群の話してやっただろ? 失われた、の方に入るんじゃないのか」


今いる神様たちは信仰者がどこかしらに存在するリアルタイムで「生きている」ヒトたちで、もう信仰が失われたそういう人たちは存在していないのだということは過去には聞いていた。


「消えちゃったのか……なんかそう考えると寂しいな」

「まぁミトラ神のまつりは復活だから、外交官としてそこは盛大に祝ってやれよ」

「いや、面識ないし」


そもそもミトラ神が来てるのかも知らない。ともかくオレたちはダンタリオンのうんちくを聞きながら、街へ出てみることにした。

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