年忘れと言ったら忘年会(3)ー佳境に達した模様です
「フグ鍋……ちょっともらおうか」
「鍋はあったまるのがいいよね」
「……浅井、すまないがこっちに少し持ってきてくれるか」
司さんは完全に二人部屋の平穏の守りに入っている。
「オレが持っていきます!」
「自重を覚えろ一木!」
「いやだなぁ、シャンティスさん。そんな言葉……オレに存在すると思っ……」
「羽ぇぇぇぇ! いい加減にしろぉぉぉ!!」
浅井さんが切れた。
まさかの人から乱闘が始まってしまった。
「シャンティスさん、酔ってるね」
「捕まったらあれ、一木くん終わるよね」
乱闘と言っても、戦力格差がありすぎるので一木はわずかな抵抗とすさまじい逃亡劇を繰り返している。
酔っぱらった面子はもうやんややんや状態だ。
「なんかほこり入ってそうだしもういいや」
女子二人のドライな感想。
「いや、端のはちゃんと蓋してあるから。オレが持ってきてあげるね~」
「……」
司さんは、なぜか御岳さんの行動を沈黙したまま了承している。
そして、防衛ラインからこちらの部屋に戻ってきた瞬間。
スパーンと音がして、ふすまは再びしめられた。
「あっ! あいつ閉めやがった!! ていうか開かない!?」
がたがたと中央を開こうとしている御岳さん。
酔っぱらっているので、気づかないんだろうが……
司さんが裏から抑えてるとは思えないから、棒か何かをつっかえにしているだけだろう。
多分、横の二枚は普通に開く。
この惨状に、酔いのまわりきらないオレと……多分、橘さんはそれに気づいているが、何も言わない。
オレは、上がり口から何となく隣の部屋の方を見る。
司さんはふたりを迅速に脱出させている。さすが本職だ。
そして、
「すみません。隣の団体が乱入してくるので席を変えてもらっていいですか」
「あ、はい。テーブル席でしたらお好きなところへどうぞ」
隣の団体っていうか、司さんが所属していた団体ですが。
そのまま三人は広い店内の離れた場所に移動して、テーブルに着くのをオレは見た。
……オレも移動していいだろうか。
「隼人! やめろ。お前の馬鹿力で開けようとしたらふすまが壊れる……!」
「だからってなぁ……締め出すことはないだろ!?」
締め出したい事態だから締め出されたことに自覚がない様子。
「御岳さん、こっち」
オレは橘さんとこの店の器物損壊を案じて、端のふすまを開ける。
やはり。
あっさり開いたそちらには、どこにあったのか程よい長さのつっかえ棒が斜めに立てかけられていた。
「こんな小学生みたいな罠が……!」
それに引っかかってたの、あなたです。
「ていうか、いない!?」
「そりゃあれだけ騒がれちゃな。司のことだからもう遠くまで手引き済だろ」
仕事みたいな言葉を使いだしている橘さん。
いや、けっこう近くにいますよ? 私服だし、たぶん、他の客に埋もれてもうみつからないだろうけど。
「でもあの二人、何か面白いことが起こりそうって言ってた」
「お前、そんなとこばっかりちゃんと聞いてて……もう起こったから満足したんだろ」
面白いことっていうか、むちゃくちゃは現在進行形で起こっている。
「何!? 司手品まで使えるの!?」
「あー人間消えるやつな」
「羽ぇ! お前は虚無の彼方へ帰れ!」
虚無っていうか、通路反対の団体席ですが。
「せっかく親睦を深める場なのに……いつもみたいに間に入って和やかに場を仕切ってくださいよ、シャンティスさん!」
「現実はお前がいなくなれば和やかだ」
ははは、といつもと違う笑みを浮かべながらシャンティスさん……もとい浅井さん。
知らずに某アプリ上で一木と同じギルドのマスターだったとか、そういう不幸なエピソードは外交部には知らせないでおこうと思う。
「浅井さんて、ちょっとかっこいいかも」
「なんだかイメージ変わったけど、私もこっちの方が好きかも~」
結局のところ。
……一番したたかなのは、肉食系女子のようだった。
オレはそっとその場から抜け出して、いつもの通り静かな面々に合流する。
オレの年末は、ゆく年くる年を見ながら除夜の鐘をテレビから聞く……
これでそんな静かな年末年始が送れそうだと、思いつつ。
* * *
後日。
あれだけバカ騒ぎをした面子は、何事もなかったかのようにすっきりした顔をしていた。
ものすごく楽しかったらしい。
あるいは細かいことは記憶から飛んでいるんだろう。
特殊部隊の方はどうだろうか。
一部、お通夜みたいになっている気がしないでもないが、あとで聞いてみることにした。
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