燃える氷

@terrntz89U

揺れる無機質

その氷は燃えていた。

揺らぐ熱気に気発した蒸気が渦になって空へと登っていく。


深く深く沈んでいく。

ここは真っ暗闇の深海のなか。

あたりを照らす光源は、怪しく、されど美しく光るクラゲばかり。


冷たい海温の中、それでも氷は溶けていた。


僕は何処へ向かっているんだろう。

溶けていく内に氷は自分がどうなるのか、それが気になって気になって仕方がなかった。


ただ一つわかることは、自分がいつか消えて無くなるという事。

緩やかに、穏やかに時間を溶かしながら氷は底へと落ちていく。


散々溶けて小さな欠片になってから氷は強く願った。

溶けてなくなりたくない、と。


だがそれは叶わぬ夢だと、どこかから湧き上がる苦しみが氷に訴えていた。

なにか出来ることはないか?自分は溶けて無くなるだけの存在なのか?


思考を巡らし、時間に抗いながらもどうにか何かを残せないかと氷は勘ぐった。


自分という存在がこの場所に居たという事を、ただ残せればそれで良いと強く願った氷に、一つの考えがよぎる。


この海を全て燃やして仕舞えば、もしかすれば何か残るかもしれない。


それは氷にとって、出来ない事だと十分理解していた。

無意味だという事も。


ただ叫ぶように、氷は自分の中の無念を燃やして、一際燃え盛った。


想いが揺らぎ、魂が熱く渦巻く。


氷は全て溶けて無くなった。

燃え尽きたのだ。


ただ、その日から、氷が生きた事によって産まれた熱い海流が、海の生態系を亜熱帯へと変えたのだった。


深海の底には、薄い桃色の珊瑚が溢れかえり、その珊瑚の世界を住処として鮮やかな小魚たちが踊る。


そして、その海の底には、今もなお燃え続ける、透明な炎が揺らぎ続けている。

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