魔術士(女)に召喚されて銃撃戦から救ったら、身体も魂も捧げるから契約しろって迫られたけど。俺には四人の妻と二人の愛人がいるから、異世界から日帰りで通うけど何か?(仮)

岡村豊蔵『恋愛魔法学院』2巻制作決定!

第1話 JKと銃撃戦

 M4A1が撒き散らす5.56x45mm弾がリアガラスにぶち当たる。西園寺麗奈さいおんじれいなは咄嗟に後部座席へ身を伏せると、顔を顰めて舌打ちした。


「いきなりマシンガンをぶっぱなすなんて……あいつら、絶対頭おかしいわよ!」


 背中まで伸ばした艶やかな髪と、吸い込まれるような青色の瞳。某キリスト教系お嬢様高校の制服が良く似合う美少女なのに、言葉遣いと態度が全てを台無しにしている。


 高速道路を走る麗奈の車を追跡しているのは、黒塗りのBMW5台。車から身を乗り出した修道服たちが、アサルトカービンを乱射している。


「魔術士を殺すためなら何でもやるイカれた連中なのは解ってたけど……日本の公道で襲って来るなんて、だからサイコ野郎は嫌いなのよ!」


 相手が何者なのかも、命を狙われる理由も解っている。襲撃者たちは魔術士を地上から殲滅しようしている秘密組織『光の神の使徒』の構成員で、奴らは麗奈を特A級ターゲットに指定しているのだ。


 麗奈の車は防弾仕様の特別製だから弾丸は貫通していないが、リアガラスはひび割れて、ボディに直撃する金属音がカンカン鳴り続けている。


「麗奈さん、そのまま伏せていてください」


 運転席の東堂加奈子とうどうかなこがクロッグ18を構える。元特殊部隊のベリーショートな冷静美人クールビューティーは、麗奈の運転手兼ボディーガードだ。


 加速したBMWが越しざまに銃弾を撒き散らす。加奈子は無言でやり過ごすと、窓を半分だけ開けてグロックでフルオート射撃。修道服一人を仕留めるが、向こうの車も防弾仕様だからこの程度では止まらない。


「加奈子さん、私がやるわ。舐めるんじゃないわよ……この私を襲ったことを後悔させてやる!」


 麗奈はサンルーフを開け放つと、身を伏せたまま呪文を詠唱する。


「『自動追尾焔弾フォーミングバレット』!」


 出現したのは青い焔の塊。垂直上昇した『自動追尾焔弾』はカーブを描いて急降下。真上からBMWの天井を突き破って、大爆発してジエンドだ。


「どんどん行くわよ。加奈子さん、リアカメラの映像を出して!」


 カメラの映像で位置を確認しながら、麗奈は『自動追尾焔弾』を連発。銃弾を車体に受けながら加奈子もグロックを撃ちまくって、残りの4台も血祭りにあげる。


「ばーか! 私に喧嘩を売るなんて十年早いのよ!」


 麗奈はニヤリと笑って中指を立てるが、歓喜の時間は一瞬だった。炎上する車を踏み潰して現われたのは、オフロード仕様の巨大な装甲車だ。


 鉄板に覆われて砲台のように設置されているのは、ブローニングM2。12.7x99mm弾を1分間に1,200発放つ重機関銃で撃たれたら、車なんか一溜りもない。


「麗奈さん、不味いですね」


「解ってるわよ。『防壁シールド』!」


 光の壁を後方に展開。重機関銃が轟音を響かせるのと同時に、加奈子が思い切りハンドルを切って車を横滑りさせる。バラ蒔かれた徹甲弾に『防壁』をほとんど削られるが、どうにか初撃は耐えることができた。


「『防壁』『防壁』『防壁』『防壁』『防壁』! 加奈子さん、お願い。もう少しだけ時間を稼いで!」


 麗奈はサンルーフから身を乗り出すと、新たな呪文の詠唱を始める。今度の魔法は大き過ぎて車内では発動できないのだ。


 『防壁』をガリガリ削られながら、加奈子が何度も車を横滑りさせる。五枚目の『防壁』が砕け散るタイミングで、ようやく詠唱が終わる。麗奈の頭上に出現したのは、全長2m超の放電する光の槍だ。


「死ね、サイコ野郎……『稲妻の槍ライトニングランス』!」


 『稲妻の槍』が装甲車に直撃。スパークする高圧電流が鋼鉄すら溶かして、襲撃者たちを消し炭に変える筈だったが……


「げっ! 嘘でしょ……」


 重機関銃は何とか破壊したが、装甲車自体はほとんど無傷だった。しかも今度は上部ハッチが開いて、修道服がレーザー誘導式ATM対戦車ミサイルを構える。


「『防壁』『防壁』『防壁』! 『自動追尾焔弾』!」


 ATMの直撃を『防壁』で防ぎながら反撃するが、『自動追尾焔弾』が着弾する前に修道服はハッチを閉める。麗奈の攻撃が不発に終わると、修道服が再びハッチを開けて、2発目のATMを構えた。


「『防壁』『防壁』『防壁』! 不味いわね……このままだとジリ貧じゃない!」


 軍用兵器と戦うには魔法は遅過ぎるし威力も足りないのだ。複合装甲を貫通して吹き飛ばせる魔法なんて『流星群メテオスオーム』くらいだが、伝説級レジェンドクラスの魔法を使える魔術士など現実には存在しない。


 防御に徹するにしても、『防壁』を連発していたら麗奈の魔力が尽きてしまう……


「仕方ないわね……ねえ、ベルカッツェ。見てるんでしょ!」


『勿論だ。我は貴様の守護者だからな』


 頭の中に直接響く声――こういうときのために、麗奈は『神格の人外』と契約している。伝説級レジェンドクラスの魔法と違って『人外』は実在するのだ。


 わざと願いを捻じ曲げて解釈したり、対価に寿命を要求するからベルカッツェは間違いなく邪神だが……実力だけは本物だった。


「ベルカッツェ、あの装甲車を始末してよ。対価は……」


『貴様の寿命10年だ』


 足元を見られているが、このまま殺されるよりはマシだ。


「解ったわよ……取引成立ね」


 突如として、巨大な立体魔法陣が上空に出現する。


 『異界の門アストラルゲート』は異界から怪物モンスターを召喚する魔法だが、ベルカッツェの『異界の門』は大きさが尋常じゃなかった。修道服も異変に気づいて空を見上げる。


「いったい何を召喚する気よ? ベルカッツェ、あんたなら装甲車くらい余裕で潰せるでしょ!」


『そんな詰まらぬことはせぬわ……魔神級の怪物を召喚して、辺り一帯を焦土に変えてやる。貴様の願いは叶えてやるから、何の問題もなかろう?』


 だから邪神はと麗奈は舌打ちするが、取引が成立しているから取り消しはできない。


 『異界の門』が開いて魔力が溢れ出す。どんな怪物が出現するのかと麗奈が固唾を飲んで見守っていると……『異界の門』が粉々に砕け散った。


「ベルカッツェ……どういうことよ?」


 しかし応えはなく、代わりに新たな立体魔法陣が出現する。今度はサイズが普通だが『異界の門』が直ぐに開いて、膨大な魔力が溢れ出し――現われたの怪物ではなく、黒髪の若い男だった。


 年齢は二十歳前くらいで、少し長い髪と漆黒の瞳。ハーフのような整った顔が、今の状況を面白がるように笑っている。


「俺を勝手に召喚しようとした・・・・・・・・のは……おまえだな」


 漆黒の瞳は麗奈を見ていた。


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