ミーの行動
「あの戦闘機、エコアースの近くに降りたみたいだ!! 何かするつもりだぞ!?」
うっそうと木々の生い茂る森の中でも、一際高いボスのような木の頂点近くまで登ったヒロが、木の下にいるアラトとジュンキにもはっきり届く声で叫ぶ。
その声を受けた二人は、ミーのいる方向に向かって走り出した。
「とにかく、ミーの足元まで言って声をかける! ……とにかく、ハアッ、一度戦いを、やめさせたいんだけど……」
アラトとうるちを探して少しずつ後を追ってきていたジュンキとヒロに合流し、アラトはそう告げた。
既に息は上がり切って、声も枯れている。
「宇喜田さんは俺が探しとくから、早く行って来い!!」
アラトはアストラマンの正体は隠し、うるちとは森の中ではぐれてしまったと説明した。
うるちのことを心配していた二人だったが、ミーと巨人がかなり離れた位置に移動したこともあってか、何も言わずアラトの作戦に乗ってくれた。
いや、作戦などと言えるようなものではない。
ミーに声をかけて戦いをやめさせれば、自衛軍に自分が飼い主だと名乗り出れば、人間を襲う危険性が無いと説得すれば。
自衛軍に拘束され、檻の中で過ごすことになるかもしれないが、そうすればミーの命だけは助けられるかもしれない。
策と言うよりも希望的観測。
しかも、やることは説得。
己の無力さに涙が出るが、今は藁をもつかむ思いだった。
そんなお粗末な方法しか思いつかないほど頭が回らない。
すぐにミーのところまで走っていけるほど体力も残っていない。
ミーに呼びかけられることもままならないほど、喉も枯れている。
今まで真剣に向き合ってきた友人たちに都合よく縋ることしかできない自分自身を責めながら、アラトは二人に叫んだ。
「お願ッ……ミーを、助けてっ……!!」
アラトの言葉に、ヒロが「ちょっと自衛軍の様子を見てくる」と木に登りだしたのがついさっきのこと。
呆気にとられるアラトを余所に、するすると苦も無く幹をよじ登り、枝に手をかける。
そんなヒロを見上げながら、ジュンキはローファーとソックスを脱ぎだした。
「ちょっと痛いけど、こっちの方が速いもんね!?」
言うが早いか、スカートを翻して走りだす。
何度も小石や枝を踏み、その度に痛がって足を上げるが、足取りは揺らがず、速度はどんどん上がっていく。
「ちょっと待っ……!」
アラトも、ジュンキよりずっとゆっくりながら、体に鞭打って走り出した。
最後にミーの隣にいるのは自分でなければならない。
ミーを止めることに協力してもらっても、そこだけは絶対に自分でなければならない。怪獣を保護することは、犯罪になる。
具体的な罰則がどんなものかは分からないが、ミーが戦いをやめた時すぐ隣にいて、自衛軍を説得するとなれば、アラト達の行為が表出する。
その時犠牲になるのは、自分一人でなければならない。
しばらく二人とは会えなくなるだろうが、元々空気のような自分がいなくなるだけだ。
両親には……悪いことをしてしまう。
しかしそれでも。ジュンキの想いだけでなく、ミーの飼い主としてだけでもなく、ただアラトの中にずっとモヤモヤと渦巻いていた思いが、棒のようになった足を前へと押し出した。
怪獣は、この世界に存在してはならないのか?
人類の活動によって生まれた怪獣が、人間によって存在を否定されるのか?
もはや歩くような速度で、アラトは走り続ける。
目の前ではミーとアストラマンが接近しては攻防を繰り広げ、また距離を取っている。空中へと飛び上がる気配は、今のところない。
巨人の拳が光り、怪獣に叩きつけられた途端に爆発を起こす。
その爆風がまだ五百メートルも離れているアラトのところまで届き、前方にあった巨大な木が数本倒れるのが見えた。
嫌な予感がした。
アラトは何者かに背を押されたように前のめりになり、操られるように今までよりもずっと早く足を動かした。火事場の馬鹿力というやつだろうか。
自分自身でも体がどうなっているか分からなくなりながら、それでも前方をじっと見つめながら走った。
巨木が倒れ切る前にミーがこちらに振り向き、しゃがみこむのが見えた。
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