帰還

「二人とも!! 怪我してないよね!?」

「だーいじょーぶ!! この通りピンピンしてるぜ!!」


 心配そうに出迎えてくれたジュンキに、ヒロがニカッと笑って答える。

 しかしアラトは疲労のために言葉が出てこず、ジュンキとうるちの無事を確認した途端前のめりでソファに倒れこみ、そこから微動だにしなくなった。


 やっと狭苦しい布の中から解放されたミーは、うつぶせになっているアラトの背中に登り、そこでしゃんと立ったまま、動かなくなった。

 その時ミーが、母親が消えていった方角に体を向けていたことには誰も気が付かなかった。


「……起きてる?」

「一応」

 静かなうるちの問いに、アラトはソファに顔をうずめたままくぐもった声で答えた。


 行儀はよくないが、まあ自分の家なので構わないだろう。

 そこからは、報告会が始まった

 。三人の会話に、アラトは耳だけを向けて聞いていた。

 ヒロの報告は、アラトと一緒にいなかった間の動きは大体聞いていた通りで、体育館から帰るときは二人で歩いたので特に目新しいものは無かった。


「はあ!? じゃあ二人とも、怪獣目の前まで来てたの!?」

「俺よりアラトの方が近くで見たらしいぜ!なあ!」

「ゲンー!!」


 ジュンキからの殺気の籠った声に、本能で危険を察知したのかミーがアラトの上から飛び退いた。

 アラトも逃げようとしたが、疲労困憊で体が動かないし、そもそも逃げ場がない。

 背中の上に飛び乗られ、危険だとか、もっと冷静にとか、死んだらどうするとか、とにかくそんな感じの説教を長々と強烈に受けた。


 なんやかんやと喚くたびに背中の上で大暴れすので、怪獣よりもジュンキに殺されそうになる。

 うつぶせのまま微動だに出来ないアラトの耳に、原因を作ったヒロの笑っている声が届いた。


 マンションの方では、特に大きな被害は無かったらしい。

 怪獣もこちらに向かって移動してきたものの、二キロ以上は近づいて来なかった。


「さすがに携帯つながらなかくなったときは心配したけどね」

「それで目が赤いのか」


 ようやくアラトの上から降りたジュンキが、再びわめき始めた。


「それだけ二人を大切に思ってる。いいこと」

 うるちの一言に、ジュンキが膝から崩れ落ちる音が聞こえてきた。


 ソファの下に何かが丸まってプルプルと動いている気配がする。

 なんとなく、アラトもソファの上で丸まる姿勢になった。

 うるちはずっと、マンションの屋上にいたらしい。


「寒くなかったの?」

「暑いのも寒いのも基本的に平気」


 と、本人は涼しく言ってのけた。

 ミーの母親がアストラマンに倒される一部始終を確認し、部屋に戻って来るとジュンキが一人で泣いていたらしい。


「ちょっとキタさん!?」

「スミキ、くっつかれると動きにくい」


 何かがまたひと暴れする音が、アラトの耳に届いてきた。

 同時に、何かがアラトの背中にのしかかってきた。

 その重みの正体が避難してきたミーだと気づくのに、そう時間はかからなかった。


 とりあえずお互いの無事を確認し、ひとまず安心したところで、それぞれ自分の家の状況を確認するため一旦解散することになった。

 アラトはソファから起き上がることもできなかったので、三人は見送りも遠慮して、それぞれに出ていった。

 三人が立ち去り、自分とミーしかいなくなった部屋の静けさに、アラトはいつの間にかまどろんでいた。

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