大ニュース
大規模な寒波が到来し、街がすっかり寒気に覆われたある日。珍しくアラトの家は賑やかだった。
「いやほんとビックリしたわ。小型の猫怪獣とだけ言われたらこいつのことだと思っちゃうよな」
「確かまだ見つかってないんだよね? 何とかできないかなぁ……」
「その場合なんとかするのは俺なんだけど。これ以上はとてもじゃないけど面倒見切れないからな」
リビングでそれぞれに座るアラト、ヒロ、ジュンキ、うるちの四人は昨日のニュースの話題で盛り上がっていた。
とは言っても、うるちだけはいつもの通り一貫して無口であり、ひたすら聞き役に徹していた。
昨日自衛軍から発表された情報はニュースを通じて、瞬く間にこの街全体へと広まった。
その内容というのは、「数日前に小型の猫と思われる怪獣が出現し、自衛軍の隊員が負傷させたものの未だ捕獲・処分には至っていない」というものだった。
アラトがこのニュースを見たのは昨日の夜、ジュンキから送られてきたネットニュースの記事によってだった。
そのニュースを見た瞬間、アラトはこの間の出来事を思い出した。
あの怪獣だ。
自衛軍のテントの中にいたアラトを見つめていた、ミーの親らしきあの怪獣。
ジュンキはニュースで報じられているのがミーではないかと案じていたようだが、そもそもその日の夕方にもジュンキはミーに会いに来ていたので、数日前という記事の内容と時系列が合わない。
アラトがミーの無事を伝え、そのことを説明してやると安心したようだった。
しかし、そんなことに気が付かないほど心配していたんだろうと、後でミーの様子を撮って動画で送ってやった。
どうやら喜んでもらえたらしい。
その時はそれで終わったが、今日になってヒロから三人へと緊急招集がかかり、今こうしてアラトの家に全員が集まっている。
「この前みたいに自衛軍が家に勝手に入ってくることはそうそうないだろうけど。また何かあった時に、外に連れ出そうとしても難しくなるんじゃないかと思うんだよ」
「そうだよね。パッと見は猫だけど、ちょっと見たら気付かれちゃうし」
「逃げてる怪獣もミーと特徴が似てるからな。皆敏感になっててもおかしくない」
この前の一件については、アラトはまだみんなに話せていない。
あれがミーの親や兄弟だという確証は無いが、なんとなく言い出せずにいた。
そのことを思い出しながら、アラトが内心ビクビクしつつ話しているとジュンキが
「でもほんとミーと一緒だよね。ミーのお母さんとかかな?」
などと言い出し、アラトはセンマイをキュッと掴まれたような錯覚を覚えた。
どこかでそういう発想になるだろうとは思っていたが、構えていてもダメージが大きい。
「あれ? でもそもそも怪獣って親子になるのかな?」
「なるんじゃないか? 昔ミニラとかザンドリアスとか見たぞ」
「それは映画とかの話じゃん!」
ヒロのとぼけた意見にジュンキがぴしゃりとツッコむ。
そんな友人たちの姿を見てアラトは思わず笑いそうになってしまった。
しかし笑い事ではない。
別にその怪獣にあったことを隠す理由は無いが、知られたいような事でもない。
意図せず段々と視線が脇に逸れていく。
「怪獣がここにいる。街の中にも潜んでいる。なのに、少し呑気すぎる」
それまで何も言わなかったうるちが急に口を開き、澄んだ声が部屋の中に響きそれまで騒がしかった二人が急にしんと静かになる。
その顔に浮かべられているのは、戸惑い。
「て言っても、小怪獣だし。大したことないんじゃないのかな?」
「怪獣……突然変異体は肉体も元の生物より格段に強靭になる。凶暴になることも多い。その子も、その気になれば人一人くらいは」
この場の誰もが感じたことを代表して口にしたヒロは、そう言われて気まずそうに視線を落とした。うるちの言っていることは確かに正しい。
この街に怪獣が出現し出したのは、アラト達が生まれるよりも前であり、日本中でも特に早い段階から怪獣と向き合い、戦ってきた街だった。
生まれたころから怪獣がそばにいたアラト達には分からないが、最近外からやってきたうるちには怪獣は恐ろしいものに映っているのだろう。
「この前は流れで押し切られたけれど、やはりその子は駆除すべき。もしも逃走中の怪獣がその子の母親なら、子供を取り消しに来ないとも限らない」
表情一つ変えずに言葉を続けるうるちは、怒っているようでも責め立てているようでも無い。
ただ、そのことが分かっているのかと念を押しているような様子だった。
「あなたたちは、怪獣というものに対して感覚がマヒしすぎている」
そう言われてはぐうの音も出ない。
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