怪獣の赤ん坊

 夕焼け色に染まり始めた部屋に、チャイムの音が響き渡る。


 誰だ?正直今はあまり動きたくない。

 こんな時間での来客は考えにくい。


 宅配か何かだろうか。

 だとすれば出なければ申し訳ない。再配達も面倒だ。


 だが今は荷物の受け取りすらも億劫この上ない。

 しかしこれ以上面倒を後回しにしたくない。抱えるものが多くなればなるほど胃腸への負担が大きくなるのは目に見えているし、今日はこれ以上腹痛で苦しみたくない。


 さあ、立ち上がるかとアラトが一念発起した瞬間……


 ピンポーン!ピンポーン!ピンポンピンポーン!


 何度も繰り返しならされる電子音に、アラトは客の正体を悟った。

 相手には自分が家にいることなど知れているのだから、居留守など使うだけ無駄だろう。


 さっさと出なければと、先程まではあんなにも気力を必要としていた起立を易々とこなし、玄関まで行ってドアを開いた。


「あのさ、親しき中にも礼儀ありって言葉知ってる?」

「それより大変! 大変なんだよ!!」


 さっき別れたばかりのジュンキの姿があった。

 さっき別れたときと同じ制服姿だが、あちこちが妙に汚れている。


 サイドテールを揺らしながら騒ぐ彼女は、ここまで走って来たのか息を切らし、体全体が汗ばんでいる。そして目を引くのが、その胸元に抱えられた小さな生き物。


「なんだそれ、猫……?」

 いや、違う。一見猫のように見えたそれには体毛が無く、目は異常なほどに吊り上がっており、その姿はまるで……


「怪獣……?」

「えーと、多分?」


 久しぶりの来客とその荷物への驚きから、アラトはしばしの間フリーズし、正気に戻った瞬間にトイレへと全力で駆けこむ。


 玄関にぽつねんと残された小柄な少女の胸元で、さらに小さな怪猫が「ナゥアーン」と低く鳴いた。

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