青春の傷痕

序奏－プロローグ－

－平成９年１０月大安吉日－

「あれから１２年経ったんやなぁ。お前も来月結婚するし、お互いに区切りがついた、って訳か！」

　と、結婚式場で隣に座る親友の村山は、俺の肩をポンッと叩いた。

「まあ、な。でも１２年前にはとても想像が付かない展開だよな、これって」

　と、俺、上井純一は苦笑いしながら返した。

「そら当たり前やろ。１５歳の時に２７歳の自分がどうなってるかなんて、夢はあっても現実はどうなっとるかなんて、分かるわけないやん」

　今日は平成９年１０月の大安吉日だ。俺、上井と親友の村山、この２７歳の２人にとって、中学からの親友の結婚披露宴が名古屋で行われ、２人とも招待状を受けて揃って出席させてもらっていた。

　いや、２人にとっての親友という呼び方は正しくないかもしれない。

　村山にとっては、昔から家族ぐるみの付き合いのある相手だが、俺にとっては、片思いの相手→両思いの彼女→元カノ→敵→友人→親友という経緯を経ているからだ。

　そう、俺達が披露宴に出て祝っている、招待状をくれた親友であり本日の主役と言うのは、新郎でなく新婦なのだ。

　付き合っていたカップルが別れる時、これからは友達関係に戻ろう、なんて言うけど、そんな友達関係になれるケースなんて、ほとんどないだろう。

　実際に俺の周りでは、村山も含めてそんな話は聞いたことがなかった。

　それが年月はかなりかかったとはいえ、俺は１５歳の中学３年生の３学期に木っ端微塵にフラれた相手と、本当に友達、いや親友関係になった。

　ここ数年は昔の断絶期間なら考えられない、仕事の悩みの相談をしたりされたり、時には彼氏との相談を受けたりしていた。

　その“親友”が目の前で嬉しそうに、真っ白なウエディングドレスを着て、新郎と一緒にキャンドルに火を灯そうとしている。

　俺は拍手をしている。

　俺の中に広島で過ごした中学時代の出来事から今に至るまでが、一瞬にしてフラッシュバックする。特に今でも中３の夏に告白し合った経験は、何年経っても心から消えることはない。

　新郎新婦が俺達のテーブルに来た時に、俺は思わず言った。

「神戸さん、これからもよろしくね」

　神戸…俺の片思いの相手、両思いの彼女、元カノ、敵、友達、親友という経緯を経てきた女性だ。

　フルネームは神戸千賀子という。

　これからは苗字は神戸ではなく、本橋姓となるそうだが、本橋さん、だなんてとても呼べやしない。

　神戸は俺の目を真っすぐ見つめていった。

「当たり前じゃん！もちろんだよ♪こちらこそこれからもよろしく」

　そう、彼女はいつも俺のことをキラキラした瞳で真っすぐに見つめて話しかけてくれた。

　今もそうだった。

　なのに、ついその視線を微妙に逸らしてしまう俺がいた。

（あーっ、だから上手くいかなかったんだって、分かってるのになぁ…）

「どうかしたか？」

　ちょっと斜めに俯いた俺に、村山が声を掛けた。

「いやいや、まぁ色々思い出しただけだよ」

　思い出すこと１２年前、広島にいた時の中学３年生の時の出来事・・・

＜プロローグ終わり＞