poem7.5 マネキンに見えるアウトくん

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“ ゲイのアウトくんの

病みがち連続ポエムシリーズ。

大震災が訪れる前の日本で過ごした学生時代は、いじめと自殺問題がいつもテレビのニュースになっていた。価値観が変わる少し前の話。オトナたちからは可哀想な視線を向けられた当時の子どもたち。学校は、刹那的でおしゃべりで露悪的で残酷な世界だった。闇になった気持ちは、闇の気持ちでないと救えないときもある。LGBTが日本語になる少し前の世界でセクシャリティに悩むためのポエムをキミに。lover、lover、lover ”


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追加エピソードです。


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 女の子が全てマネキンに見えた。中学生のとき、女の子を好きにならないのが怖くて、女性の体を無理矢理に、想像した。気持ちが悪かった。女体、それ自体への圧倒的な嫌悪。同性愛者だと気が付いた後も、夜になれば、また無理に、想像してみる。丸い肩と丸い背中のライン。気持ちが悪い。はれた胸。

気持ちが悪い。肥大した乳首。気持ちが悪い。開かれた局部。気持ちが悪い。重そうだと思う。臭そうだと思う。しずみこみそうな柔らかな皮膚が、気持ちが悪い。絶望して、うらめしくなった。


 いつのまにか、高校生になった。男の子に好きになってもらえる女の子が、うらやましくて、うらめしい。女性が好きになれる男の子が、うらやましくて、うらめしい。夜は、ずるずると心を闇に引っぱってくれる。もし

、この世に、女の子がいなければ、同性愛は普通になりますか。もし、恋愛が、この世のゴールなんだったら、僕の世界に、女性は必要ですか。男の子しか存在しない世界に、行くことができたなら、僕は幸せになれますか。


 怖くて仕方なかったうちに、うまく振舞えなくて、1人になる。僕の世界には、僕しかいない。関われない世界の、観測者にさせられた。僕には、男の子しか見えない。観測者は

、辛い仕事だ。男の子は、希望と絶望が目一杯に詰まったオモチャ箱。いつか、開けられるようになるのかなと考える。ずっと開けられないのかもしれないと思う。女の子は、すこし、考えて、その後すぐに、もう、何も考えたくなくなった。僕の世界には必要ないんだと気が付いたとき、女の子はマネキンになった。嫌われても、関係のない、マネキンのロボット。そう思うと、すこし気が紛れた。マネキンになった女の子は、気持ちが悪くなくなった。世界がさみしくなって、あゝ、僕は、歪んでいるんだなと思った。


 戦争を体験した画家が、戦後、人は肉に過ぎないことを指摘することがある。きっと、その人は、肉の世界にったんだと思った。僕は、マネキンの世界にった。


 大学生になった。一度、マネキンになった世界は、幾度も変化していた。女の子は、少しだけ、人間的なビジュアルになった気もするし、男の子も、なぜか、マネキンになってしまった気もする。世界と人に傷付けられていたのに、人を傷付けやすい世界になった。痛みを受けた子どもが、何も思い出せなくなって、生きている実感がなくなって、自動

運転のままで、自分や人を傷付けるようになる。ことわりだ。被害者が加害者になっていく直前の感覚。僕は、生きていて、久しぶりに、気持ちが良くなる。普通の人は、自動運転のまま、マネキンの世界のまま、生きているのかなと考えてみる。普通の人は、こんなギリギリの感覚で、被害者と加害者のラインを行ったり来たりしながら、ドライブしているのかなと考えてみる。普通の人の人生は、酷く仕様もないなと思って、やっぱり、僕は、もう少しだけ、気持ちが良いままでいた。


 ヌードデッサンをさせられて、気分が悪くなった。結局、僕にとっての女体は、気持ちが悪いままだった。いつか、毎晩、無理矢理に夢みて、異性愛を想像した、肌色の局部が、洗いざらいに晒される。ストーブで生暖かくなった、埃っぽい部屋に閉じ込められると、僕の体調は、順調に悪くなった。これじゃ、本当に観測者だ。こんなものが、綺麗だなんて、美術が好きな人は、頭がおかしいんだなと思った。量感を目で追えるものが良いのなら、いっそ、生肉でも吊るしてほしい。巨大なゼリーでも用意してほしい。興味のないものに、強制的に集中させられるのなら、ジェンダーを感じないものがよかった。トラウマが引き出されないものよかった。人以外がよかった。本物のマネキンがよかった。僕の住んでいた、マネキンの世界は、唐突に、終わりを告げられた。

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