poem5 リスカできないアウトくん

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“ ゲイのアウトくんの

病みがち連続ポエムシリーズ。

大震災が訪れる前の日本で過ごした学生時代は、いじめと自殺問題がいつもテレビのニュースになっていた。価値観が変わる少し前の話。オトナたちからは可哀想な視線を向けられた当時の子どもたち。学校は、刹那的でおしゃべりで露悪的で残酷な世界だった。闇になった気持ちは、闇の気持ちでないと救えないときもある。LGBTが日本語になる少し前の世界でセクシャリティに悩むためのポエムをキミに。lover、lover、lover ”


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 アウトくんはリスカできなかった。いつか、中学生のときだったか、「リスカは生きるためにやる行為」だと、課外学習で見せられた夜回り先生のビデオで熱弁されていたのを覚えている。教育困難校にも、ヤンキーたちに夜回り先生のビデオを見せるぐらいの神経もあったのだ。リスカが生きるための行為だと、より強く自覚できたのは、高校生になって、自殺したいと思うようになってからだった。自殺したいは、自殺したくないという気持ちと一緒にやってくる。自殺したいよりも強く思っていたのは、自分がエイリアンじゃないのか?という強迫観念だった。エイリアンは妄想だから、アウトくんはエイリアンじゃないと理解はできても、自分の身体から青や緑の液体が溢れでる映像が、頭に1時間も2時間も流れていた。自分の血が赤色だと信じられなかった。アウトくんの血が赤色だと確認できたら、すこしは生きやすく、今日はぐっすり優しい気持ちで眠って、明日は自然な気持ちで学校に行けるように、そんな安心があるかもしれないと考えた。今、生きているのかが、信じられなかった。未来も生きていられるのかが、信じられなかった。もし、血が赤いと確認できたら——。


 アウトくんはリスカできなかった。リスカしないように必死に我慢をした。リスカの画像を検索する。たくさん画像を調べて、たくさん画像を見た。そして、ひたすら、これが自分にも流れているんだと、クラスのみんなと同じ赤い血が流れているんだと、必死に思い込んで、信じられるように、アウトくんは努力した。でも、信じられなかった。だから、自分の血が赤いか青いか緑かはわからないけれど、洗面器に血を貯めるアウトくんを見つけたら、家族に心配されると思って、心配される人は普通の人じゃないから、エイリアンになっちゃうから、心配をかけたくないから、いつか裏切る家族かもしれないから、今はまだ裏切りたくないから、画像を見て、我慢をすることを、アウトくんは選んだ。普通になりたかったから、アウトくんはリスカできなかった。

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