【第五章】『調査』
その日の夜雄哉は紗弥加のスマートフォンに電話をかけていた。
「もしもし雄哉さん?」
この頃になると紗弥加も雄哉からの電話が待遠しくなっておりその声はとても弾んでいたのだが、何故かこの時の雄哉の声は重く沈んでいた。
『こんばんわ紗弥加ちゃん』
「何だか声が暗いですね、何かありました?」
『実はまたおかしなことが起きてね、もしかしたら紗弥加ちゃんの事何か知っているんじゃないかと思って昨日父さんに相談してみたんだ。その時は俺達が付き合う事に何の問題もないって言ってくれていたんだけど今日になって突然呼び出されて、なぜか俺達の交際を反対されてしまったんだ』
「どうして、あたし達の関係に何かあるというの?」
『分からない、でも俺達が付き合うと不幸になるとも言っていた。ほんとどうしてなんだろうな?』
「どう言う事なのそれ」
『分からない、とにかく調べてみよう、ちょっと聞いておきたいんだけど紗弥加ちゃんのお母さんの名前は何て名前なの?』
「ママ? ママの名前は麗華って言うんだけどそれがどうかしたの?」
『ちょっと調べるのにね、情報は少しでも多い方が良いと思って』
翌日会社を休んだ雄哉はあらかじめ調べておいた近くの探偵事務所へと向かい、二人の関係を調べてもらう事にした。
そこは所長の飯島の他に事務の女性が一人いるだけの小さな事務所であった。
部屋の奥に通された雄哉が古びた応接セットのソファーに座り待っていると、そこへ隣室から飯島がやって来た。
「いらっしゃいませ、お待たせしてすみません」
そう言いながら雄哉の向かいのソファーに腰を下ろす飯島。
「それで本日はどんな御用件で?」
「俺達二人の関係を調べてほしいんだ」
「関係とは?」
「分からない、でも何かあると思うんだ。何も関係がなければそれで良いんですが」
「分かりました、ではお名前を伺ってよろしいですか?」
「俺が広瀬雄哉、父親の名前が雄二」
「それでお相手の方は?」
「相手が畑中紗弥加、母親の名前が麗華、まずはそれぞれの親がどんな関係だったのか、それによって俺と紗弥加ちゃんの関係がどういう関係なのか調べてほしいんだ」
「分かりました、調べてみましょう。多少お時間頂くかもしれませんがよろしいですか?」
「分かりました、でもなるべく早くお願いします」
「かしこまりました」
雄哉は飯島探偵事務所を後にするとすぐに紗弥加のスマートフォンに電話をかけた。
「もしもし紗弥加ちゃん、悪いけど今から会えるかな?」
『良いですよ、あたしも会いたかったの』
「じゃあこれから迎えに行くよ、いつもの所で待っていてね」
『はい分かりました』
その後紗弥加はあれこれとお気に入りの洋服をベッドの上に並べどれを着て行こうか悩んでいたが、今の紗弥加にとってその悩んでいる事自体が楽しくて仕方なかった。
(どれにしよう、ほんとどれも捨てがたくて悩むなぁ?)
さんざん悩んだ末紗弥加はある一着の淡いピンクのワンピースを手に取りそれに着替える。
その後着替え終わるとメイクをし、家を出る紗弥加。
「急がなきゃ、もう来ちゃう」
走っていつもの公園に向かうとそこにはすでに雄哉の車が止まっていた。
「ごめんなさい遅くなって」
「良いよ気にしなくて、俺に会う為にいろいろと悩んでくれたんでしょ、俺も気にしないから大丈夫! それよりどこ行く?」
「雄哉さんに任せます」
「じゃあ昼も近い事だしとりあえず腹ごしらえしようか」
そう言うと車を走らせる雄哉。
この時ある事を思いだした紗弥加は隣で運転をする雄哉にそっと声をかける。
「だったら行きたい所があるんですけど良いですか?」
「どこ? 俺の知っている所ならどこでも行くよ」
「雄哉さんは森下食堂って知っています?」
「もちろん知っているよ、小さい頃よく連れて行ってもらったからね、でもここ二・三年は行ってないかなぁ? それがどうしたの?」
「会長さんに初めて会った時に森下食堂に連れて行ってもらったんです。またあそこのハンバーグが食べたいなぁと思って」
「森下食堂ね、分かった。俺もあそこのハンバーグは好きだよ、すごく旨いよな? じゃあ行こうか」
そうして森下食堂へ向け車を走らせる雄哉。
その後森下食堂近くのコインパーキングに車を停めると車を降りた二人は店まで歩いて行く。
店に着いた二人は店内に入って行く。
「大将お久しぶりです」
雄哉に続き挨拶をする紗弥加。
「こんにちは、おじちゃんのハンバーグ食べたくてまた来ちゃった」
「おっ雄哉さんじゃないですか、随分久しぶりじゃないですか? それにお嬢ちゃんまで、嬉しい事まで言ってくれちゃって、かあさんこの前話したお嬢ちゃんがまた来てくれたよ」
かあさんとは接客中の妻、節子の事であった。満面の笑みで二人を出迎える節子。
「いらっしゃいあなたが紗弥加さん? 主人から話は聞いたわよ、よく来てくれたわね、さあ二人とも座って」
節子の勧めにテーブルへと座る二人。
そこは昼時のため満席だった店内の唯一空いている席であった。
この時の紗弥加には店内の客はいずれも常連客の様に見えてしまい、引け目を感じた紗弥加はこの店に来たいと言ってしまった事をいささか後悔していた。
この後雄哉と店主達の仲の良さを感じられた紗弥加は若干の勇気を持つ事が出来た。
「おばちゃんも元気そうで何よりです」
「ありがとう」
「それはそうと今日はどういう組み合わせですか?」
「ちょっとね、会長さんの所にお礼に行った時に知り合って、それで付き合う事になっちゃった」
満面の笑みで言い放つ紗弥加。
紗弥加の言葉に隣で聞いていた雄哉は突然の事に嬉しくてたまらず、思わず顔がほころんでいた。
「紗弥加ちゃんそれって、この前の告白OKって事で良いの?」
「良いわよ、これが返事」
「いやぁめでたいね、二人ともハンバーグ定食で良いんだよね、おじさんおごっちゃう」
「良いんですか? ありがとうございます」
「良いよ、めでたい事だからね、お祝いしないと」
その後平日にもかかわらず何故この時間にこの場所にいるのか尋ねる紗弥加。
「それより雄哉さん、今日お仕事はどうしたんですか? 平日はこの時間会社ですよね」
「今日は休んだんだ。今探偵事務所に行った帰りなんだよ」
「探偵事務所?」
その言葉に紗弥加は首をひねる。
「あぁ俺達の関係を調べてもらおうと思ってね、あまりあてにはしてないけど……」
「そうなんですか、でもあたしは分からない方が良いなぁ?」
「どうして?」
「だってもし二人の間に何かあって別れなきゃいけなくなったら嫌だもん」
「大丈夫だよ心配ないって」
安心させようとする雄哉であったが、そう言う雄哉自身も実は心配でならなかった。
そんなところへ料理を運んでくる節子。
「なに、何の話?」
「何でもないですよおばちゃん。良いからおばちゃんは仕事して下さい」
笑みを浮かべながら言う雄哉。
「それじゃあ食べようか」
「はい、いただきます」
その後二人で食事を愉しむと店を後にする。
「ごちそう様でしたおじちゃん、美味しかったです」
紗弥加が礼を言うと、その言葉を聞いてついうれしくなる森下。
「ありがとね、そう言って貰えるとおじさんも嬉しいよ、また来てね」
そんな森下に雄哉も礼を言う。
「大将ごちそう様、また来ますね」
そう言って店を後にした二人は、再び車に乗り込むと紗弥加は雄哉にも礼を言う。
「ありがとうございました雄哉さん、とてもおいしかったです」
「何言ってんの紗弥加ちゃん、おごってくれたのは大将だよ、今回僕はお金出してないんだからそんなの良いって」
「でもここまで連れて来てくれたじゃないですか?」
「そんなの良いのに、でもどういたしまして。また来ようね」
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